ナンバーガールのライヴ・アルバム『シブヤROCKTRANSFORMED状態』は発売されてすぐに聴いたから、たぶん1999年の年末か、2000年はじめのことだったはず。一曲目「エイトビーター」のイントロが鳴り出した瞬間に躯を突き抜けた雷のような震えを忘れることはできない。あれから15年近くが経ち、最近出た彼らのメジャー・デビュー作『スクール・ガール・ディストーショナル・アディクト』リマスター盤のラストに収められたその曲を聴いて、もう一度同じほどの動揺を感じた。
ブランキー・ジェット・シティが去るのと入れ替わるように登場した
ナンバーガールのギター(
向井秀徳)のざらついて輝く音には、
ブランキー(
浅井健一)に通じるものがあったけれども、音楽自体は
ブランキーに比べてなんと軽やかだったことだろう。いや、
サウンドメイキングという点ではむしろ
ナンバーガールの音はベースが前面に出てドラムの音も重く録られているのだけど、歌詞やメロディーや向井のわけのわからないMCも含めた音楽としての佇まいに漂う軽みに、何かから眼を覚まされた気がした。
その後、2000年の夏に
ひたちなか市であったロック・イン・ジャパンで、
スピッツやイエロー・モンキー(そして強風のため中止されたので観られなかったけど、登場が予定されていた
浅井健一や
中村一義)の
オープニングアクトとして登場した
ナンバーガールを観た。ステージはちょっと遠かったけれど、演奏は圧倒的なテンションで風圧を感じたし、
リードギター田渕ひさ子の凜としたカッティング、ベース
中尾憲太郎の黒いモズライト・ベースを振り回す姿もたまらなく格好良かった。結局、彼らを生で観たのは最初で最後になってしまった。そのときは、たった3年で解散するなんて思わなかったけれど、実際にそうなってみると意外な感じはしなかった。まさに、あるべき距離を駆け抜けた、という印象があって、その先にはもう走るべきコースなど残っていないないように思えたから。
今回の『スクール〜』リマスター盤には、アルバム本編の曲目をそのまま再現したライヴ(1999年8月11日、下北沢Club Que)が2枚目として付いてくる。これが凄い。もともとアルバムの方も、アナログの8チャンネルレコーダーで一発録りした、ほとんどライヴ・アルバムのような造りだったけれど、この
正真正銘のライヴの方がむしろ音質が良く、演奏も決まってるかもしれない。「
アリゾナ州のニュー・
イングランドで蠍を捕まえて生活の足しにしている少女」とか、謎のMCも炸裂する。これから、同時に発売されたセカンドアルバム『SAPPUKEI』やサードアルバム『NUM HEAVY METALIC』を聴くのが楽しみでならない。
ギターマガジンのインタビューを読むと、彼らの解散には別段人間関係的なゴタゴタはまったくなく、純粋に違う音楽をやってみたいという向井ほかの意志が理由だったようで、再結成はないのかという質問にも否定的ではなかった。リーダーである向井がその気になれば、それもありうるという感じ。でも、向井自身は、それは大変なんだ……みたいなことをごにょごにょと言ってお茶を濁していた。その理由は、これらのアルバムを聴けばよくわかる。これほどのテンション、一作ごとに上昇する強靱な意志を具現化することは、とてつもないエネルギーを必要とするだろうと、聴くだけでも痛感できる。でも同時に、これらのアルバムを聴いて、2014年を軽いナイフで無茶苦茶に傷つけるような
ナンバーガールの新作を聴いてみたいという欲望も膨れあがってしまう。
(ところで、初めてナンバーガールを聴く人は、ベスト盤『OMOIDE IN MY HEAD』を手に取ることが多いと思うけれど、このアルバムには『NUM〜』のラストを飾る美しい「黒目がちな少女」が入っていない、という弱点がある。だからいずれは『NUM〜』を聴かねばならない。ということは最初からオリジナル・アルバムを購入することをお勧めする。)