小山静子・赤枝香奈子・今田絵里香編『セクシュアリティの戦後史』京都大学学術出版会

セクシュアリティの戦後史 (変容する親密圏・公共圏)セクシュアリティの戦後史 (変容する親密圏・公共圏)
小山 静子

京都大学学術出版会 2014-07-28
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 執筆者の一人、石田仁さんからお送りいただきました。ありがとうございました。
 すぐには読み通せそうにないが、目次を見て、一宮真佐子「マンガにおける農村の『性』とジェンダー:『むら』のファンタジー」に惹かれた。「むら」を舞台にセクシュアリティ描写が繰り広げられるマンガがけっこうあるということには僕も何となく気づいていて、いくつかの作品は愛好もしてきたけど、この切り口で論文を書こうとはなぜか思いつかなかった。目の付け所の良さに、まずは脱帽。

NUMBER GIRL / SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT (15th Anniversary Edition)

School Girl Distortional Addict 15th Anniversary EditionSchool Girl Distortional Addict 15th Anniversary Edition
NUMBER GIRL

ユニバーサルミュージック 2014-05-20
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 ナンバーガールのライヴ・アルバム『シブヤROCKTRANSFORMED状態』は発売されてすぐに聴いたから、たぶん1999年の年末か、2000年はじめのことだったはず。一曲目「エイトビーター」のイントロが鳴り出した瞬間に躯を突き抜けた雷のような震えを忘れることはできない。あれから15年近くが経ち、最近出た彼らのメジャー・デビュー作『スクール・ガール・ディストーショナル・アディクト』リマスター盤のラストに収められたその曲を聴いて、もう一度同じほどの動揺を感じた。
 ブランキー・ジェット・シティが去るのと入れ替わるように登場したナンバーガールのギター(向井秀徳)のざらついて輝く音には、ブランキー浅井健一)に通じるものがあったけれども、音楽自体はブランキーに比べてなんと軽やかだったことだろう。いや、サウンドメイキングという点ではむしろナンバーガールの音はベースが前面に出てドラムの音も重く録られているのだけど、歌詞やメロディーや向井のわけのわからないMCも含めた音楽としての佇まいに漂う軽みに、何かから眼を覚まされた気がした。
 その後、2000年の夏にひたちなか市であったロック・イン・ジャパンで、スピッツやイエロー・モンキー(そして強風のため中止されたので観られなかったけど、登場が予定されていた浅井健一中村一義)のオープニングアクトとして登場したナンバーガールを観た。ステージはちょっと遠かったけれど、演奏は圧倒的なテンションで風圧を感じたし、リードギター田渕ひさ子の凜としたカッティング、ベース中尾憲太郎の黒いモズライト・ベースを振り回す姿もたまらなく格好良かった。結局、彼らを生で観たのは最初で最後になってしまった。そのときは、たった3年で解散するなんて思わなかったけれど、実際にそうなってみると意外な感じはしなかった。まさに、あるべき距離を駆け抜けた、という印象があって、その先にはもう走るべきコースなど残っていないないように思えたから。
 今回の『スクール〜』リマスター盤には、アルバム本編の曲目をそのまま再現したライヴ(1999年8月11日、下北沢Club Que)が2枚目として付いてくる。これが凄い。もともとアルバムの方も、アナログの8チャンネルレコーダーで一発録りした、ほとんどライヴ・アルバムのような造りだったけれど、この正真正銘のライヴの方がむしろ音質が良く、演奏も決まってるかもしれない。「アリゾナ州のニュー・イングランドで蠍を捕まえて生活の足しにしている少女」とか、謎のMCも炸裂する。これから、同時に発売されたセカンドアルバム『SAPPUKEI』やサードアルバム『NUM HEAVY METALIC』を聴くのが楽しみでならない。
 ギターマガジンのインタビューを読むと、彼らの解散には別段人間関係的なゴタゴタはまったくなく、純粋に違う音楽をやってみたいという向井ほかの意志が理由だったようで、再結成はないのかという質問にも否定的ではなかった。リーダーである向井がその気になれば、それもありうるという感じ。でも、向井自身は、それは大変なんだ……みたいなことをごにょごにょと言ってお茶を濁していた。その理由は、これらのアルバムを聴けばよくわかる。これほどのテンション、一作ごとに上昇する強靱な意志を具現化することは、とてつもないエネルギーを必要とするだろうと、聴くだけでも痛感できる。でも同時に、これらのアルバムを聴いて、2014年を軽いナイフで無茶苦茶に傷つけるようなナンバーガールの新作を聴いてみたいという欲望も膨れあがってしまう。

(ところで、初めてナンバーガールを聴く人は、ベスト盤『OMOIDE IN MY HEAD』を手に取ることが多いと思うけれど、このアルバムには『NUM〜』のラストを飾る美しい「黒目がちな少女」が入っていない、という弱点がある。だからいずれは『NUM〜』を聴かねばならない。ということは最初からオリジナル・アルバムを購入することをお勧めする。)

シブヤ ROCKTRANSFORMED状態シブヤ ROCKTRANSFORMED状態
NUMBER GIRL

ユニバーサルミュージック 2013-04-02
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青空が重苦しい午後はルー・リードに限る


 ルー・リードの1972年のライヴを収録した『アメリカン・ポエット』のイタリア製重量版2枚組。ジャケットの状態が良かったので買ったのだが、重量版だとは気がつかなかった。音は大変良く、盤質が良いのかスクラッチノイズも少ない。手持ちのCDの方が周波数レンジが広くてバランスもフラットな感じだが(といっても元の録音状態そのものがオーディオ的にはそれほど優秀とは言えないのだが)、会場の空気感そのものが聴き手にぶつけられるような臨場感はLPの方がかなり上だと感じた。満足。

田中雄一『まちあわせ』、三好銀『もう体脂肪率なんて知らない』、つばな『第七女子会彷徨 7』

田中雄一作品集 まちあわせ (KCデラックス)田中雄一作品集 まちあわせ (KCデラックス)
田中 雄一

講談社 2014-06-23
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 4つの短編を収録。大まかにテーマを分けると、前半の2本は人類と異質な敵との戦い(巨大昆虫や「異人類」との死闘を日常化しながら次第に追い詰められてゆく人類)を、後半の2本は人類自身の異質なものへの変貌(巨大な樹木との合体、共同体を守るために巨獣にさせられる少年)を描く。
 どれもド迫力だが、とりわけ表題作がもたらす感動は圧倒的だ。楳図かずお漂流教室』、諸星大二郎「生物都市」、藤子F不二雄「一千年後の再会」といった名作群を通過・消化しながら、人類の変貌を通じた再生というSF的王道テーマを高密度のメロドラマに仕立て上げる力量はすばらしい。主人公たちのありふれたセックス・シーンのかそけき美しさ。庄司創と並んで、現代SFの一方の極を記しづける名作である。

もう体脂肪率なんて知らない (ビームコミックス)もう体脂肪率なんて知らない (ビームコミックス)
三好 銀

KADOKAWA/エンターブレイン 2014-02-24
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 いつも通りの、人を食ったような三好銀のぷちシュールな日常世界。空気そのものが少し痒いようなエロティシズムも健在。

第七女子会彷徨 7 (リュウコミックス)第七女子会彷徨 7 (リュウコミックス)
つばな

徳間書店 2014-07-07
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 待望の第7巻は、予想以上の壮大な話だった。大島弓子の名作「ロングロングケーキ」等にも通じる、ある意味で少女マンガの通奏低音をなすテーマに貫かれていると思ったが、中身は読んでのお楽しみ。ふと、ドアーズからつげ義春吾妻ひでおを通ってつばなへ、という系譜図が頭に浮かんだが、途中が飛びすぎですかね。

[ジェンダー]土田『公立高等女学校にみるジェンダー秩序と階層構造』、東賢ほか『リスクの人類学』、三部『カムアウトする親子』

この場を借りて御礼を申し上げます。
皆様、お若いのに、立派な御本をお書きになりますな。(三部さんの本だけ、まだアマゾンに書影がないのが残念。)

公立高等女学校にみるジェンダー秩序と階層構造: 学校・生徒・メディアのダイナミズム (MINERVA社会学叢書)公立高等女学校にみるジェンダー秩序と階層構造: 学校・生徒・メディアのダイナミズム (MINERVA社会学叢書)
土田 陽子

ミネルヴァ書房 2014-04-25
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リスクの人類学 不確実な世界を生きるリスクの人類学 不確実な世界を生きる
東 賢太朗

世界思想社教学社 2014-05-22
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カムアウトする親子: 同性愛と家族の社会学カムアウトする親子: 同性愛と家族の社会学
三部 倫子

御茶の水書房 2014-06-23
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陳怡禎『台湾ジャニーズファン研究』 (青弓社ライブラリー)

台湾ジャニーズファン研究 (青弓社ライブラリー)台湾ジャニーズファン研究 (青弓社ライブラリー)
陳 怡禎

青弓社 2014-02-22
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 「台湾におけるジャニーズファンを事例に、ファンがアイドルを介して女性同士の友情や親密圏をどう構築するか」をフィールドワークにもとづいて明らかにしようと試みる研究書。著者は1983年生まれ、北田暁大門下の留学生で、本書は修士論文を再構成したもの。
 まだ序章をざっと見ただけだが、台湾ではジャニーズファンの年齢層が日本よりも高く広く、二十代・三十代が中心とのこと。対して日本については、多くの先行研究が、重大女子のサブカルチャーと把握しているという。この点については、そりゃそうだろうなと思う反面、大学に勤めていると熱心なジャニーズファンの中高年女性教授にはたまに遭うのに、同様の学生にはお目にかかったことがないのが、ちょっと不思議ではある。福山とか堺雅人とかの名前はよく聞くんだけど。

佐藤卓己『ヒューマニティーズ 歴史学』

歴史学 (ヒューマニティーズ)歴史学 (ヒューマニティーズ)
佐藤 卓己

岩波書店 2009-05-26
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 2009年刊。小著で自分史風の叙述も多いので、中身の薄い本になりそうな気がするが、そんなことはなく、学ぶことが多かった。
 以下は2000年刊の著作『ヒトラーの呪縛』についてのものだが、こうした展望は、今やいっそう重い警告になってしまっただろう。

 私は大学院生とともに、小説、映画、漫画、プラモデル、ロック音楽、陰謀論、インターネットなど可能な限りのデータを収集、分析するとともに、ネオ・ナチ右翼、制服マニア、オカルト作家などの本音を聞き出すべくインタビューも試みた。そこで、私は「ヒトラーが勝った文化戦争」に遭遇することになった。ヒトラーだけを比較を絶した悪のシンボルとする戦後文化が、この逆転した世界を可能にしたのである。ヒトラーが絶対悪の象徴となったことで、逆にヒトラーは現実政治を測る物差しとなった。キリスト教世界においては、絶対善である神からの距離によって人間の行為は価値づけられていた。一九世紀末にニーチェが宣言した「神の死」以後の今日、絶対悪のヒトラーがあらゆる価値の参照点に立っている。これを「ヒトラーの勝利」と呼ばないで、いかなる勝利が存在しようか。
 また、人間を悪魔化することは、人間の神格化への誘惑となる。ありあまる自由に息苦しさを感じ、価値の逆転を狙う「負け組」の目にそれは「神」と映らないだろうか。いまのところ、絶対悪=ヒトラーに帰依する社会的弱者は少数に過ぎないだろう。しかし、格差社会の進展の中で絶望した「負け組」が大量発生しないという保証はない。圧倒的多数の負け組を生み出すグローバル化の中で、ヒトラー民主主義を回避するためにはヒトラーの悪魔化よりも人間化こそが有効に思える。
 それは歴史の語り口の問題でもある。ナチズムに関する歴史叙述では、しばしば「(許すことが)できない」「(否定)せねばならない」などといった規律=訓練(ディシプリン)の話法が多用されてきた。しかし、この話法はそもそもナチズムの話法ではなかったか。ファシズムの話法でないファシズムの叙述がいまこそ必要なのである。さらに言えば、自らがファシストになる可能性に目を閉ざさないファシズム研究の必要性である。
佐藤卓己『ヒューマニティーズ 歴史学岩波書店、2009年、pp. 73-75)