リッキー・リー・ジョーンズのベスト・アルバム

 リッキー・リー・ジョーンズの3枚組ベスト盤、duchess of coolsvilleは無敵だ。このどこまでも穏やかにセンシュアルな歌には、聴く者のあらゆる感情のくぼみにそっと分け入って、そこから少し息を呑むような思いがけない要素をさぐりあてて見せてくれる、いかがわしい魔法のような手づかいがある。ずっと以前にもこの日記に(続いているのです)書いたような気もするが、リッキー・リーの歌を聴く度に僕はふんわりとした無力感に打ちのめされ、ただため息をつかずにはいられない。こんな風に歌えたら何もかもが可能になるはずなのに!という妄執に深く苛立たされながら、曲が移り変わるにつれて、覚醒もまた深まっていくという感覚。
 このベスト盤は3枚組だが、2980円と激安なので、これからリッキー・リーを聴いてみようという人にもお勧めできる。輸入盤なので歌詞カードはないが、http://www.alwaysontherun.net/rickie.htm#a2ですべて読める。もちろん訳詞はないが、どうせ日本版CDについてくる訳詞なんかたいしたことない。英語が苦手な人も、どこからでもいいから、目にとまったフレーズをゆっくり繰り返し、声に出して読んでみれば、必ず何かが伝わってくると思う。それに、たとえば現時点での最新オリジナル・アルバム、Rickie Lee Jones,The Evening of My Best Day――ちなみにこのアルバムはあまり話題にならなかったが、素晴らしい作品である――に収められていた"Ugly Man"のこんな歌詞を理解するためには、世界情勢の常識さえ知っていれば、英和辞典も不要だろう。

He's an ugly man
He always was an ugly man
He grew up to be like his father
An ugly man

And he'll tell you lies
He'll look at you and tell you lies
He grew up to be like his father
Ugly inside