『愛なんていらねえよ、夏』

 しばらく前に買って、なかなかまとめて観る時間がないので、ちびちびと小出しに観ていたDVDの『愛なんていらねえよ、夏』(主演・広末涼子渡部篤郎)を、ようやく観終わった。
 素晴らしい傑作だ、これは。TV放映当時(2002年7月〜)の視聴率は平均7.7%、最高でも11.1%で、これはTBSの金曜22時枠でも歴代最低なのだが(正確に言うと岸谷五朗主演の『世界で一番熱い夏』が最高視聴率は10.4%で最低だが、平均は9.5%あった)、脚本(龍居由佳里)のキレ、とりわけ映像の美しさは、TVドラマとしては群を抜いている。渡部篤郎の過剰な演技(演出は堤幸彦)には賛否両論あったというが、確かにハリウッド映画にときたまある「怪演」の部類だが(『狼たちの午後』アル・パチーノとか)、おれとしては最高にハマった。ただ、台詞はまるで聞き取れないが。
 おれがヒロスエ教徒であることは差し引いてもらってもかまわない。ともかくTVドラマでは視聴率と出来は〈まったく〉無関係だということを再確認した(視聴率が低かったのは、たぶん単にこの作品が陰鬱で、「お約束」が少なかったからだろう)。それにしても、この作品は広末さんがもっともぶっ壊れてたころの製作で、撮影をすっぽかしたり、いろいろたいへんだったらしい。『WASABI』ではやたらと頭髪が薄くなってた広末は、このドラマでは明らかに顔がむくんでいて、肌も荒れている。それが妙にリアルなのだが、ところが不思議なことに、終盤に近づくにつれて、なぜかだんだん美しくなっていくのである。最終回とその前の2回ぐらいは、かつて傑作『20世紀ノスタルジア』を観た森下一仁氏をして「まるで天使だ」と言わしめた、あの神々しい魅力がresurectしている。
 TVドラマなので、例によって最終回はまあアレだが、それはいいでしょう。