縷縷日記

 NHKテレビのドイツ語講座をたまに観ている。昨年度と今年度のナターシャ先生もよいのだが(別に「メガネっ娘」萌えというわけではない)、いまでも時折思い出して胸がきゅんとするのは2003年度の講座だ。ベルリンのアパートをシェアしている何人かのドイツ人と日本人が、リビングで雑談をしているという設定で、いまもやっている相澤啓一教授もいい味を出していたが、なんと言っても市川実和子の魅力に金縛りにあったようだった。そう、あの、やたらとヒョロ長くて、でかい目が離れてついている、あの市川実和子。最初は「なんだこの変な女」ぐらいにしか感じなかったのに、番組を観るにつれてどんどん惹きつけられ、可愛らしいドイツ語人形劇「ピポの大冒険」のコーナーに出てくるピポと彼女が会話するところとか、番組の最後で彼女が(なぜか皇室風に?)バイバイと手をふるところとかを観る度に、胸がキューンとなるという病いに罹ってしまった。その市川実和子が、岩井俊二のあの恐るべき除去不能な痛みを観る者の内部に埋め込んでしまう暴力的な傑作『リリィ・シュシュのすべて』に登場する、妙に生々しい女子大生をやっていた人と同一人物だと気づいたのは、しばらくたってからのことだった。

 今日、新宿ルミネ内の「ブックファースト」に立ち寄って、深緑の表紙の、薄い絵本風の本がたくさん並んでいるのを見つけた。よく見てみると、題名は『縷縷日記』(リトルモア)。中身は、市川実和子とeriと東野翠れんという3人の交換日記で、写真やイラストがたくさん載っている。
 これはもうぼくの言葉による説明能力をはるかに超えている。こんなにかわいい本がほかに、どこにあるだろうか(いや、ない)。少女趣味に呪われたすべての人びとに、この本を心から薦めよう。この本のページをゆっくりと開いてゆくごとに、周りの汚れきった世界からの雑音は、いつのまにか遠のいてゆくことだろう。

 ちなみに、他に買ったのは、大森望『特盛!SF翻訳講座』(研究社)と『サウンド・アンド・レコーディング・マガジン』最新号。