安穏族

 研究室の整理をしていたら、石坂啓『安穏族』を発見して、ありがちなことだが延々熟読、そして号泣。若き石坂啓、なんという才能だったことか。紛れもなくこれは、あのふわふわ、ぶよぶよした1980年代というひ弱な時代の最良の部分だった。ここではじめて女の子たちに等身大の声が与えられたのだ。それから20年後、ぼくらはいま、かつて石坂啓とともに怖れた通りの、いや、それ以上にどうしようもない世界の中にいるような気がする。そのなかでもがくしかない。