齋藤純一『自由』

 岩波「思考のフロンティア」シリーズの一冊。非常に良い出来。形而上学的な自由意志論や経済学的な議論はばっさり省かれているが、政治哲学的な「自由」の思想史として超高密度にまとまっているだけでなく、言及されるすべての思想家や思想潮流それぞれの独自の可能性がさりげなく際立たされる叙述になっている。この本を読めば、やっぱりJ・S・ミルやバーリンアーレントは鋭かったとうならされるだろう。
 こんな小さな本でそんな力業を展開しているので、斎藤さんの生真面目というよりも生硬と言わざるを得ない文体も相まって、読みやすくはない。つまり入門書と勘違いしてはいけない。また、amazonのレビューでgaoqiaoj氏が書いている、「本書の内容が、今現実に起こっている、「自由」をめぐるさまざまな葛藤・摩擦を解決する上での処方箋になるとは思えないし、そのヒントにすらならないと思う。「そんなのオレの自由だ」が決まり言葉になっている昨今の風潮や、「市場の自由」を錦の御旗に掲げる市場原理主義者に、「それは「自由」の本来の定義ではありません」という「説得」が、どれほど意味を持つだろう」という「不満には一理あるとは思うが、第一にそもそも即効的な「説得」はどうやったって不可能なのだし、第二に本書の意義はそもそも別のところにあると言うべきだ。アクチュアルな問題群に直面しつつ、「自由」という概念を使って何を考え得るか、何を問題化しうるかを、一歩引いた地点でじっくり考えるためのガイドブックなのである。そこから、「それは「自由」の本来の定義ではありません」という「説得」をするためではなく、相手の言う「自由」概念の偏狭さや矛盾を衝くために、本書をマスターしておくことは有効だろう。