獣王星

 アニメ化を記念してというわけではないけれど、ふと思い立って、樹なつみ『獣王星〔完全版〕』全3巻大人買い、そして怒濤のように読了。内容は知っている人も多いと思うが、一応ネタバレに注意しつつ、ぼくなりに紹介してみよう。(設定についての説明は面倒くさいので省く。ウィキペディアでも見てください。)――苛酷な世界の地表で、最も美しい者たちが、最も強く、正しく、賢く、傷ついている。そして、弱く、美しくもなく、とりたてて能のない人びとはあっさりと死んでゆく。弱くて格好悪いけど頭のいい「ハカセ君」のような役割分担は、ここにはない。そして彼らはもちろん<男>であり、<女>には興味がない。女に興味のある男なんて、その瞬間に、「男なんてみんな同じね……」のただの男に成り下がってしまうだろう。登場する女たちはみな力強く愛すべきキャラだけれど、トールやザギやサードに比べれば、美しさにおいても鋭さにおいても比べるべくもない。世界がこれほどまでに単純で美しくあってくれれば!という狂おしい希求が全編を貫き、力強く推進力のある冒険譚が展開される。これはやはり90年代日本の(あるタイプの少女たちの、と付け加えるのはちょっと不格好だけれども)心象風景を要約する作品のひとつだと思う。
 それにしても、サードのキャラ造形は、少女漫画史上でもかなり上位のカッコよさだろう。アニメは観てないけど、矢口真理さんと別れたという小栗旬君のサード役、大丈夫なんだろうか。