漫画版『神聖喜劇』第三巻

 予告通りに出た第三巻。前半は、「八紘一宇」の高邁なる理想をあくまでも信じる村上中尉と大前田の対決に、そしてあの忘れがたい「剃毛」のエピソードに至る不可思議な逢引の夜が挟まり、息を呑むような深い陰影が際立つ。そして後半では、「金玉はズボンの左側にいれろ」という軍の規定をめぐるシュールなまでにユーモラスなやりとりの後に、神山が勿体ぶって口にした「フツウメイシ」の意味がわからんと粘り着く大前田の、ほとんど<物質的>な人物像がいよいよ迫力を増してくる。この巻もまったく期待に違わぬ出来だった。表紙も凄い!
 ただし、ひとつ苦言を。原作の文庫本より遙かに小さい文字の羅列は、いくらなんでも、もすこしどうにかならぬものか。いつも夕方になると酷使した眼球が必ず痛くなる、老眼進行中のオヤジである私のような読者には、これがなかなか辛いのさ。