ニューヨーク

 2006年8月1日、「ほんとうに感情労働してるのか?」と疑わざるを得ないアテンダントたちと満員の乗客を乗せたユナイテッド航空機から、ようやくニューヨーク・JFK空港に降り立った瞬間、ドンという音がしそうな熱気の衝撃に襲われた。それから数日間は摂氏40度近い日が続き、マンハッタンの市街を歩いているとほとんど我慢大会のようで爽快なほどだったが、ここ一週間ぐらいは30度に達しない日も多くなって、朝は涼しいぐらいだ。

 NYはとにかくどの建物に入っても冷房が強烈で、ニューヨーク大学(NYU)の図書館も半袖のTシャツでは2,3時間いるのがやっと。10度ぐらいの温度変化には気づかないと言われる鈍感なアメリカ人の学生たちもさすがに長袖をきている人が多い。ぼくもいつも長袖のトレーナーを持ち歩いている。こんなに無駄に冷房をしまくっていて、それで原油価格が上がったの何だのと、アホかと思わざるを得ない。ほんとはもっと怒るべきなんだろうが。

 いったん落ち着いたアパートが、北向きで暗いとか、家具付きなのはいいのだがベッドが壊れていたりとか、そのくらいままあいいのだが、真裏で建築工事をしていて、どうやらこれからずっと続くらしい。まだ基礎工事の段階なので、入居時に窓からざっと周りを見渡した――といっても基本的に視界はないのだが――ときには気づかなかった。日系の不動産会社A社NY支店のK氏が静かだと強調するのを半信半疑で受け止めていたが、たしかに夜は問題ないけど、昼間は非常にうるさい。A社のK氏、たぶんだましたというより、下調べをあまりせず、調子のいいことを言っていたのだろう。とはいえ、住めないほどではないし、工事は平日の朝7時から午後4時頃まで、しかもわりとだらだらやっているので、ここ数日はそんなにうるさくない。新しい住まいを探しているものの、このまま住み続けるか、迷っている。

 今回ぼくはNYUの人類学学科教授のRayna Rapp先生に受け入れ担当になってもらっている。この方はTesting Women, Testin Fetusという本で、出生前診断のひとつである羊水穿刺をめぐる充実した人類学的記述を展開しているのだが、その本でも感じられる目配りや思慮が人柄にも現れていて、親切でよく気がつく人。日本でも短時間お話ししたことはあったのだが、そのときよりはほんの少しこちらの英会話力も向上しているし、最初のランチでは研究関心やお互いの身の上など、それなりに中身のある話もできた。ほっとした。

 ともかく、早く生活の基盤を固めねば。