ハト

 ハトが嫌いだ。いや、ハトと書くと「東ハト」とか「ハトヤ」が連想され、反射的にキャラメルコーンが食べたくなったり、でっかい魚を両腕で抱えるポーズをとりそうになってしまったりするが、そんな脱力な雰囲気に誤魔化されてはいけない。改めて「鳩」と書くと、やつらの生々しいというか、いないようでどこにでもいる、あの独得の実在感が感じられてくるであろう。だいたい、なんで扁が「九」なんだ。

 バードウォッチャーの雑誌で読者アンケートをとったら、嫌いな鳥の第1位が鳩だったそうだけど、ぼくがやつらを憎むのは姿形ではなく、あの断末魔のような鳴き声のせい。なにがポッポッポだ、全然ちがうじゃないか。うまく表記できないが、さかりのついているときの、「んプォーーンッ! んプォーーンッ!」というような鳴き声というか泣き声を朝6時ごろから、しかも追いはらうまでは延々搾り出しつづける、あの風情が気に入らん。東京でも迷惑を被っていたが、NYに来てからも、ぼくの部家の窓の前の中庭に集まって、時を選ばず、んプォんプォ鳴き喚いている。その音で朝6時ごろに目が覚めてしまう。と思っていたら、久しぶりに暑かった昨日はうるさかったのに、一気に涼しくなった今日はわりと静かなので、気温が高いほど求愛行動が烈しくなるのかもしれん。

 というようなことをいつも思っているのだが、昨日の昼間、ロックフェラー・センターのベンチに腰かけて昼飯を食べていたら、どこからか飛んできた1羽の鳩と雀が、ぼくのちょうど目の前に落ちていたひとかけらのパンくずからほぼ等距離に着陸した。果たしてどちらがパンくずをゲットするのかと固唾を呑んで見まもっていたところ、俊敏性で上まわる雀ダッシュしてあっさりとパンをくわえ、敗れた鳩はそのまま何事もなかったような顔をして(というか、何事かがあったような顔は基本的にできないとは思うけど)、そのまま歩み去ってしまった。こういうときに、体格の有利さを活かして、雀からエサを奪い盗ったりはしないのね。さすが平和の象徴と、少し感心させられる光景であった。

『鳥類図鑑』
『私家版鳥類図鑑』
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