カノン

手塚治虫「戦争漫画」傑作選 (2) (祥伝社新書 (087))
手塚 治虫
祥伝社 (2007/08)
売り上げランキング: 21643
 超名作「カノン」を巻頭に置いた、手塚の戦争物アンソロジー第2巻。戦争・セックス・宗教を人間の三大サガとみたマックス・ウェーバーに対し、手塚は戦争・セックス・差別の三つのテーマの絡み合いを終生のテーマとした。というよりも、それらに取り憑かれていたといったほうがいい。本書に収録されたのは、もちろん戦争を主題とする作品たちだが、後二者のフレーバーも全編にまき散らされている。
 人間を溶かす薬品の研究に従事する二人の研究者の時空を越えた邂逅と悲劇を描く「溶けた男」(『ザ・クレーター』中の一話)、人間の恐怖心を取り除き殺人マシーンに変貌させる食品がもたらす惨劇「イエロー・ダスト」、そして空襲で死んだ小学校の同級生たちと再会する主人公の哀しみが胸を打つ「カノン」が本書の白眉だろう。個人的には既読の作品が多かったけれど、このようなアンソロジーで読むことで、手塚の異様なまでに激越な〈戦争への怒り〉が改めて剥き出しに迫ってきた。