精神分析における生と死

立木著によると、フロイトの「生の欲動/死の欲動」概念については、これ↓(原著は仏語)がメルクマール的な研究だということだったので、猛スピードで斜め読みしてみた。

Life and Death in PsychoanalysisLife and Death in Psychoanalysis
Jean Laplanche

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 ラプランシュの主張は、生の欲動(エロス)にそれとは別種の死の欲動タナトス)が対立するのではなく、心的エネルギーにはリビードしかない、それがエロスないし死の欲動として現象する、そしてセクシュアリティ死の欲動の側に属する、といったところ。結論部分をざっと試訳してみる。

〔同時に〕ここでわれわれはエロスの登場を目の当たりにする。われわれはこの聖なる力を十分に精査(examine)することができず、ただそれがいかに性欲(sexuality)――精神分析の第一の発見物――と異なるかを強調することができただけである。エロスは、生物の、また精神生活の一貫性や統合的傾向性を、維持し、保全し、増大すらさせようと務めるものなのである。精神分析の創始以来ずっと、性欲がその本質において結びつけること(binding)に敵対的であり、自我の介入を通じてのみ結びつけられうる〔拘束されうる〕「切り離し」(un-binding)あるいは解きほぐし(Entbindung)の原理であったのに対して、エロスとともに現れるのは拘束されているのみならず拘束する形態の性欲(セクシュアリティ)であり、ナルシシズムの発見によって光を当てられたものである。昇華の特定の形態と同様に、自我と生命そのものを維持するのは、その対象に備給し、ある形態に貼り付けられる、この形態の性欲なのである。
 生なるものと恒常(ホメオスタシス)的なもののこの勝利に直面しても、フロイトは、自らが発見したものの構造的な必然性にしたがい、一種の反生命としての性欲(セクシュアリティ)を、〔すなわち〕熱狂的な享受(jouissance)を、否定的なものを、反復強迫を改めて確保した(reaffirm)――精神分析の枠内のみならず、生物学(認識論上の諸区別のカテゴリカルな無視によって)の範囲においてさえも。戦略的にみれば、精神分析の諸原理を生命の次元(vital order)に回帰させることは、ひとつの逆襲(counterattack)に等しい。すなわち、人がそれによって侵略される危険を冒したところの基盤そのものを粉々にすることである。主体の戦略? 物自体の戦略である――もしも、強烈に人間的な戦争を生命に回帰させることがすでに、性欲によって導入された一般的な転覆の起源にあったということが本当だとすれば。
 性欲動のエネルギーは、知られているように、「リビード」と呼ばれた。シンメトリーへの形式的な関心から生じたことだが、かつて死の欲動を指し示すために提案された「デストルード(destrudo)」という語は、一日足りとて生き延びなかった。なぜなら死の欲動は、それ自体のエネルギーを持ってはいないからだ。死の欲動のエネルギーはリビードである。あるいは、よりうまく言い換えるなら、死の欲動とは、リビードの循環を構成する原理としての魂〔精神soul〕そのものなのである。
 最終的な本能二元論系譜学? もしわれわれが、フロイトの思考においてつねに対立項をなしているタームをつきあわせてみれば、その系譜学派一つの奇妙なキアスムのかたちをとる。その謎を、フロイトの後継者であるわれわれは、解読しはじめたところなのである。(英訳pp.123-124)

 まだよくわからんけど、〈セクシュアリティとエロスはまったく別物、むしろ相対立するもの〉という見方は、フロイトを読んでいるとそうとしか読めない議論に出くわすわけだが、専門家的にもそう読めるのね、ということを知っただけでも収穫。ちなみに、この点について、ジェシカ・ベンジャミンは次のようにコメントしている。

性欲はエロスと融合することもできれば、死や破壊と融合することもできるというラプランシュの主張を、私は正鵠を射ていると考える。精神分析が果たした大発見はこの後者の方、すなわち性欲の否定的形態である。この発見によって、なぜ人間が死と破壊に奇妙にも魅きつけられるのかを解明する道が拓けた。(『愛の拘束』邦訳p.326n)

ラプランシュの主張を敷衍するなら、本能と本能のあいだの真の対立はエロスと死の対立なのではなく、エロスと攻撃性との対立なのであり、そして攻撃性は大抵性欲という形で現れるのである。(邦訳p.99)

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