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レッド

レッド 1 (1) (KCデラックス)レッド 1 (1) (KCデラックス)
山本 直樹

講談社 2007-09-21
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 かつて山本直樹の『ありがとう』を僕は読み進められなかった。しょっぱなから延々描かれる性暴力が耐えがたく不快で、比喩でなく吐き気を押さえられなかったからだ。もちろんこれは作家に対する賛辞ではある。山本直樹ほどに人間のおぞましいものを深く、しかも無造作というかナチュラルな手つきで読者の眼前にごろりと投げ出してみせることのできるマンガ家はいない。そこにはノスタルジーやロマンティシズムのかけらさえなかった。だから、(小林よしのりが、エロを描いてもよいと勝手に許可を与えたマンガ家のなかに、岡崎京子と並んで山本の名が当然のごとく挙がっていたとしても)、そこにはいわゆるエロスさえあるのかどうか、怪しいといわざるをえない。(懐かしさと結びついていないセックスに、いったいどんなエロスがあるというのか。)
 連合赤軍事件を冷徹なドキュメンタリー調のマンガに仕立て上げた『レッド』には、いまのところ、『ありがとう』ほどの〈不気味なもの〉は感じられない。なぜだろう。本のカバーに書かれた、また山本自身もインタビューで語っているような、「普通の真面目な青年たちがなぜあのような狂気にまで暴走してしまったのか」とまとめられるようなテーマの立て方は山本には似合っていない。なぜなら、人間がこの上なくくだらない欲望によって、この上なくおぞましいやり方で他人を殺すなどということは、山本直樹にとってはただのありふれた現実にすぎないはずだからだ。いや、たぶん、まさにそれこそがこの作品の真の「テーマ」であって、先のような「なぜ」はただのタテマエなのだろう。ほとんど登場人物の紹介だけで終わる第1巻は、やがて閉ざされた山中で繰り広げられるはずの惨劇を丹念に、しかし乾いた筆致で描き尽くすための準備作業にすぎないのにちがいない。そこではきっと、またしても僕が文字通り目を背けざるを得ないようなおぞましい光景が、一片の愛もロマンもなく、精密に描かれるにちがいない。それは、やはり連合赤軍をひとつのモチーフとし、その歴史的「総括」を果たそうとした大江健三郎『懐かしい年への手紙』の強度と張り合うにたる、しかしまったく異なる次元での――非歴史的「総括」?――連合赤軍論になるだろうか。

ありがとう 上 (1)ありがとう 上 (1)
山本 直樹

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ありがとう 下    ビッグコミックス ワイド版ありがとう 下  ビッグコミックス ワイド版
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懐かしい年への手紙 (講談社文芸文庫)懐かしい年への手紙 (講談社文芸文庫)
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