僕の音盤青春記

 音楽誌やオーディオ誌になんとも良い味の自伝的―というとちょっと大げさだけど―な身辺雑記を書いている牧野さんの単行本。『CDジャーナル』に連載した記事に加筆したものらしい。僕より数歳上の世代に属する田舎の高校生が1970年代前半の洋楽にめざめ、ハマっていく日々を活き活きと描いたイラスト・エッセイ集である。

 サイモンとガーファンクルからはじまって、もちろんビートルズエルトン・ジョン、シカゴ、イエス、キング・クリムゾンピンク・フロイドといった大物アーチストの話が中心なのだが、アーチストそのものにかんするウンチクよりも、「地元のレコード屋で買った『アビー・ロード』の1曲目(「カム・トゲザー」だ!)がまったく気に入らず、半泣きで『サージェント・ペパーズ』と取り換えてもらった」とか、「名古屋でやったサンタナのライブに学校をさぼって行こうかと悩んだが、結局不良になりきれず、学校が終わってからダッシュで出かけたらようやく間に合った」とか、ときには「高校の卓球部で、まったくのシロウトなのに大将として試合に出されそうになり、自分の前の選手たちが全員負けたので出ないで済んだ」といった音楽とはまるで関係のないネタも含め、まさに微笑ましいとしか言いようのない中学生&高校生ライフに、読者は思わずうんうんとうなずかずにはいられない。

 そして何より魅力なのは牧野さんの驚異の記憶力で、出てくるレコードや身の回りの品々、何よりオーディオ機器のディテールがまったく手抜きなく完璧に描き込まれているのが、もうとっても楽しいのだ。たぶん、いや絶対、一部の読者には。だって、アンプやカセット・デッキの絵だけでメーカーや型番がだいたいわかるんだもの。楽しいよね?  

 音楽の話としては、牧野さんの思い入れが感じられるサンタナについての文章がとくに良い。『ロータス』の超大22面ジャケットを全開できる部屋にようやく住めるようになったという話には実感がこもっている。悲運のシンガー・ソングライター、ジム・クロウチをめぐる思い出―まだ肉親の死にも遭遇したことのなかった若き著者にとって、自分の知っている人間の死にはじめて触れた経験―もしみじみ読ませる。ジム・クロウチは僕の守備範囲外だったけど、牧野さんの文章を読んでベスト盤を買ってみた。思いこみのせいだとは思うけど、どこか遠いところから聞こえてくるような声だった。

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牧野 良幸

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