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孤高の人

 というわけで、新田次郎の山岳小説の傑作群をどうぞ。暑さの夏に、これ以上うってつけの読書はありえまい。
 集団にけっして道を譲らなかったという〈孤高の単独行者〉加藤文太郎にちょっとだけ倣って、僕も我が物顔で通路を覆い尽くす集団と相対したときには、けっしてよけずに真ん中を突っ切ることにしている(1対1のときは率先して道を譲る)。二人の優秀な女性登山家たちの生涯を描いた『銀嶺の人』のラスト近く、主人公の一人が遭難死する場面の鋭利にして静謐な描写は、忘れ得ぬ名文のひとつである。
 僕が若い頃に純粋な敬意と憧憬の念を抱いていた当時現役の登山家たち、植村直己も長谷川恒男も小西政継も、山で死んでしまった。修士課程の院生だった頃に冬の硫黄岳での訓練山行につれていってくれたガイド役の女性登山家も、その後剣岳で滑落死した。当時二十代後半だった僕を、なぜか16歳と勘違いして、山小屋の人に対する口の利き方が生意気だと注意されたことをよく覚えている。ちょっとした趣味の範囲であっても、継続的に山に登っていると、生きることの果ての死というものについて、否応なく考えるようになるものだ。

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