ワードマップ エスノメソドロジー

エスノメソドロジー―人びとの実践から学ぶ (ワードマップ) (ワードマップ)エスノメソドロジー―人びとの実践から学ぶ (ワードマップ) (ワードマップ)
前田 泰樹 水川 喜文 岡田 光弘

新曜社 2007-08-03
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 これも、かなり前にいただいたものだが、読んで紹介しようと思っているうちに1年以上が虚しく過ぎ去っていった。でもようやく読んだので、遅まきながら、簡単に紹介する。

 「エスノメソドロジー」に興味を示す社会学の学生は根強くいるのだが、いままでは自信をもって薦められる(日本語の)入門書や概論書がなかった(見落としていたらあっさり謝る)。これまでの、エスノメソドロジーと銘打った本を読んで、「人々が気づかずに行なっている、日常生活の中の見えない差別を暴く」のがエスノメソドロジーなんだと勘違いをしていた若者も少なくなかったのではないか。もちろん、エスノメソドロジーが日常的な相互行為のなかに「差別」を見出すことはありうる。だが同時に、「差別を非難する」実践を見出すこともできるのであり、どちらの発見がエラいわけでもない。それに何よりも(僕の理解が正しければ)、少なくともヴィトゲンシュタインに依拠するタイプのエスノメソドロジーにとっては「何も隠されていない」(N・マルコム)のであって、「人々自身にとって隠された何かを社会学者が暴く」というスタンスというか文体は、そもそも転倒しているはずである。

 まあそういうわけで、「エスノメソドロジーってなんすか?」という学生には、今後は間髪を入れず「まずはこの本を読みなさい」といって追い返すことができる。当分はスタンダードな教科書でありつづけるだろう。またそれに限らず、広く社会学方法論に意識的であろうとする人にとって、読めば必ず何かを得られる本だと思われる。付け加えるなら、複数の著者が書いているが、研究会を重ねて内容を熟成させたとのことで、文体も難易度も方向性も非常に統一されており、清々しい。