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基本的には「優秀な高校生なら読める」という路線のシリーズだし、著者がいたずらにトンガッタことを言わない人なので、解説はわりと常識的な内容で、物足りないと言えば物足りない。とはいえ、教科書にも載っている「雨ニモマケズ」や「永訣の朝」に加えて、「わたくしどもは」や「氷質の冗談」もとりあげられているので、ほとんど宮沢賢治だけに読むことができるあの途方もない悲しさや禍々しさの一端を知ることもできる。(それにしても、「わたくしどもは」を読んで何が書いてあるのかが理解できる高校生などいるのだろうか? もちろん、わからなくてもいいのだ。なんだかよくわからない言葉の列に首筋を掴まれて、それまでの時間の流れとは別の刹那に放り出されてしまう、それが青少年のあるべき読書体験というものだろう。)
宮沢賢治の禍々しさ、ちょっと他の作家には匹敵するもののない、世界に対する憎悪の激流を知るには、「土神ときつね」のような童話を読むのがいちばんだが、次の詩なども、どこかで間違って「ほのぼの良い人」的な宮澤賢治イメージをもってしまった人にはかなり衝撃的ではないだろうか。(これは漫画『プラネテス』でも引用されたし、新潮文庫の詩集にも採られているので、若い読者にもけっこう知られた作品かもしれないが。)僕などはいつも、読むたびに首筋がヒヤリと冷たくなるような言葉の刃だ。
サキノハカといふ黒い花といっしょに
革命がやがてやってくる
おほよそ卑怯な下等なやつらは
みんなひとりで日向へ出た蕈のやうに
潰れて流れるその日が来る
やってしまへやってしまへ
酒を呑みたいために尤らしい波瀾を起すやつも
じぶんだけで面白いことをしつくして
人生が砂っ原だなんていふにせ教師も
いつでもきょろきょろひとと自分とくらべるやつらも
そいつらみんなをびしゃびしゃに叩きつけて
その中から卑怯な鬼どもを追ひ払へ
それらをみんな魚や豚につかせてしまへ
はがねを鍛へるやうに新らしい時代は新らしい人間を鍛へる
紺いろした山地の稜をも砕け
銀河をつかって発電所もつくれ
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