『功利主義と分析哲学―経験論哲学入門』

功利主義と分析哲学―経験論哲学入門 (放送大学教材)功利主義と分析哲学―経験論哲学入門 (放送大学教材)
一ノ瀬 正樹

放送大学教育振興会 2010-03
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 詳しい内容は、放送大学のシラバスで。
 「経験的=empirical」という概念を、カント以降の「感覚」や「知覚」ではなく、ギリシア語の「エムペイロス」からイギリス経験論にまで受け継がれた「努力し試みることの中において」という意味でとらえ、そうした意味での経験論こそが功利主義と(大きな枠としての)分析哲学の共通点である、という見通しのもとに、倫理学とと認識論・科学哲学の幅広い話題を整理した概論書。コンパクトなサイズに壮大なテーマを押し込めてあるので、個々の解説は必ずしもわかりやすいとは言えず、「こういう問題がありますよ、いまはこんなことがさかんに論じられていますよ」という紹介をしてくれる、解説付きブックガイドという趣きだが、そういう本としてはたいへん有益。個人的には、「第14章 認識の不確実性」「第15章 ベイズ主義の展開」では知らないこともいろいろ書かれていてタメになった。
 著者自身の方向性は、最末尾でニューカム問題や逆向き因果の問題を論じた後に、さりげなくまとめられている。

 ……私の見方では……経験論的発想を共有する功利主義分析哲学の融合は、究極的には因果性の概念へと収斂してくる。そして、こうした経験論的な文脈で因果性に焦点を合わせるという視点は、経験論的発想が「知ること」と「行うこと」との連続性を起点とする思考様式である限り、「知ること」と「行うこと」の起点、その意味で知識や行為の原因としての「人格」(パーソン)、へと回帰してくるはずである。「人格」は責任帰属のありかであり、そして原因概念はもともと責任概念と同根だからである。