ほんとうに久しぶりに、本物の「少女マンガ」を読んだ気がする。それは、万が一にも社会現象になるような普遍性を持たず、恋愛であれ何であれいかなる舞台設定や小道具(スポーツとか)よりも登場人物間の関係性そのものだけが真性の主題であるような、そして実体感のない細い線で描かれた、大河的ではないマンガたちのことである(この意味で『
ちはやふる』や、『
ハチミツとクローバー』でさえ、僕にとっての「少女マンガ」とは少し異なる)。'70年代後半から'80年代前半の主に
集英社から刊行された、いまは論じる人も少ないマンガたちはすっかり僕の血肉と化していて、水分の次に多い肉体の成分であるような感じがする。そういうマンガはもう絶滅したのかと思い込んでいたが、この香魚子の作品には、初期の槙村さとるや
くらもちふさこ、中期の
岩館真理子にあった透明な、凛とした残酷さが受け継がれているように感じる(語り口的には、むろん
紡木たく以来の流れが色濃いが、香魚子はもう少し邪悪だ)。たとえば、誰かにとっての「世界の終わり」は、別の誰かにとっては少しも終わりではないということ。このあたりまえのことを、繰り返し確認していくような世界観の中で、少女たちはそれでも物語の始めよりもその終わりにおいて、ほんの少しだけ「わかり合う」ことを、確かに達成している。『
ハチクロ』を最後まで読めなかった人も、「思った通りのことを言う」登場人物がどの作品にも一人は出てくる香魚子の作品なら読めるかもしれない。そして、そこに描かれた少女たちの稚拙な葛藤の模様から、私たちは他人を傷つけてもいいのだ、むしろ傷つけるために精一杯の努力をすべきなのだということを、学ぶことができるかもしれない。