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デイヴィッド・ヴァレンタイン『トランスジェンダーを想像する』

Imagining Transgender: An Ethnography of a CategoryImagining Transgender: An Ethnography of a Category
David Valentine

Duke Univ Pr (Tx) 2007-12-31
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 今年度の大学院のテキストだったのだが、結局100ページも進まんかった……。指導学生のテーマに合うことは間違いないので、年度初めの段階では内容はあまり吟味せずに選んでしまったのだが、期待以上に面白い本だった。
ゲイ男性人類学者による、1990年代末のニューヨーク(主にマンハッタン内)におけるトランスジェンダー・コミュニティのフィールドワーク。といっても、トランスジェンダーという概念を大枠に据えてそこに人々を当てはめていくのではなく、むしろトランスジェンダーという概念の困難さを明かるみに出す作業になっているのが興味深い。
 序章で述べられているが、行政やNPOに関わる「専門家」(著者も含む)から見るとどう見てもトランスジェンダーとしか呼べない人たちが、自分のことをあくまでもゲイと呼んでいたりするという事態に遭遇した著者は、他の専門家やアクティヴィストのように「あいつらは概念を間違えて使っている」という方向に走らずに、そもそも「トランスジェンダー」という概念はいつどういう背景をもって生まれ、どのようにして定着してきたのか、その概念を使うことでわれわれは何をしているのか、という概念分析的な方向に関心を向けていく。
 そこからさらに、「セックスとジェンダーは別のことなのだから、性的指向性自認は別のことなのだ、だから同性愛と性同一性障害をいっしょくたにしてはいけません」という現代ジェンダー論の公式的な共通了解をも分析対象として据え、その歴史性を問い直していく(ところで、「性自認」と「性同一性(障害)」という訳語の併存は、いつまで続くのだろう)。同時に、そうした反省を経ながら、人々がアイデンティティの定義を媒介としてどのように関わり合っているかを丹念に見ていこうとしている(日本では石田仁さんが江原・山崎編『ジェンダーと社会理論』に寄せた論考でやっていることに通じる関心かもしれない)。形式的に整序された方法論があるわけではないのだが、分析はそれなりに精緻で、なかなか密度の高い本だった。
 ヴァレンタインさんの英語の文体はきびきびしていて、それほど難しくない(簡潔な文体であるがゆえの難しさはあるかもしれないが)。スラングが乱舞するが、ジェンダーだのセクシュアリティだのといったテーマについて一通りの知識がある人なら、そんなに苦労せず読めるだろう。と思ったんだけど。
 さて、来年度のテキストは何にするかなあ。今度も「性自認トラブル」的な研究テーマの人が入ってくるので、そこら辺の英語の本をいくつか見つくろっているのだけど、これというのが決まらん。
ジェンダーと社会理論ジェンダーと社会理論
江原 由美子

有斐閣 2006-12
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