『長嶋有漫画化計画』

長嶋有漫画化計画長嶋有漫画化計画
うめ;ウラモト ユウコ;衿沢 世衣子;オカヤ イヅミ;カラスヤ サトシ;河井 克夫;小玉 ユキ;島崎 譲;島田 虎之介;萩尾 望都;100%ORANGEフジモトマサル陽気婢;吉田 戦車;よしもとよしとも藤子不二雄(A) 原作 長嶋 有

光文社 2012-03-17
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 長嶋有の小説は好きだが、このアンソロジーにはあまりに多くの漫画家が参加しているので、いくら何でも全部が全部粒ぞろいということはないだろう、でも、よしもとよしともが描いているなら買っておくかというぐらいのノリで買って読んでみたが、思った以上によかった。
 巻頭を飾る萩尾望都大先生、少女漫画家にありがちな、齢を重ねるごとに本来の鋭く繊細な線がいくらか太く雑な印象になってきてはいるが、それでもやっぱり決めるところは見事に決めてくれる。主人公の少女が夢想する冬景色の描写は圧巻だ。そして、母親がもしかしたらもう帰ってこないのではないかという不安の胸を締めつけるような重苦しさ、そして、それなら自分の力で生きていかねばと決意する少女の論理的必然のような清々しさも、萩尾望都以外の誰にも醸し出すことはできない質のものだ。
 よしもとよしとも「噛みながら」は、銀行強盗に巻き込まれる女の子という設定からして、何も知らずに読めばよしもとのオリジナル作品だということを疑うことなく読み通してしまうだろう。改めて、よしもとよしとも自身の漫画をもっともっと読みたくなる。
 他には、カラスヤサトシの手になる「夕子ちゃんの近道」が意外なほど良かった。カラスヤさん、見くびっていてごめんなさい。うめによるBL風「パラレル」、小玉ユキの正攻法な「泣かない女はいない」も楽しい。島田虎之介「猛スピードで母は」、ウラモトユウコ「サイドカーに犬」、河井克夫「タンノイのエジンバラ」は原作の印象に忠実。「タンノイ」に出てくる、見ず知らずの隣人からいきなり預けられる女の子の顔のゆるい造作は、もうこれしかないという感じで素敵だ。