『宝石と双眼鏡』

宝石と双眼鏡ーボブ・ディランの音楽宝石と双眼鏡ーボブ・ディランの音楽
マイケル・ムーア

インディーズ・メーカー 2003-10-22
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 ジャズ・ミュージシャンによるボブ・ディランのカバー集。リーダーシップをとるのは、オランダ在住のアメリカ人クラリネットおよびサックス奏者マイケル・ムーアという人で、もちろん映画作家マイケル・ムーアは別人。ただし、あちらも最近?ディランのカバー曲でフォーク・シンガーとしてデビューしたみたいなので、ネット検索する人が混乱しそうだ。

 それはともかく、このアルバムは本当に素晴らしい。原曲を言い当てることは困難なほど、すべての曲が徹底して解体・再構成されているのだが、その手際がじつに緻密で、カオスになる一歩手前でふみとどまっている感じ。だから聴いた後で曲名を見れば「ああなるほど」と心地よい驚きが味わえる。ディランのジャズ・アレンジでは若きキース・ジャレットによる、げに美しき「マイ・バック・ページズ」がいちばん有名で人気なのではないかと思うが、この『宝石と双眼鏡』に納められた演奏たちもそれに負けず劣らず、哀しくも美しい。真冬の夜に聴くのも切なくていいが、風の強い初夏の夕方に鳴らすのもオツだった。

 しかも、このCDはめちゃくちゃ音質がいいのだ。冒頭のパーカッションは思わず息を飲むほど生々しく響き、自然な音場空間を伸びやかなアコースティック楽器の音たちが泳ぎ回る。この十年来、僕のリファレンス・ディスク第1位なのだが、マイナーなアルバムなのかな、ハイレゾ音源をいくら探しても見つからない。とっくにSACDになっていてもいい逸品なのに。