思想

ぐちと本の紹介

忙しい……。年明けに出さねばならない仕事が3つある。風邪も引いてしまった。いつも通り「ドリスタン」を半袋、お湯に溶いて飲む。 先週は、イギリスの医療社会学者サラ・フランクリンの着床前診断に関する新著(Sarah Franklin and Calia Roberts. Born and …

立ち向かわなくていい

12月20日(水) 次の部屋探しから帰ってきて、ちょっと疲れた気持ちでラップトップを立ち上げ、たまたま松井秀喜が『朝日新聞』(12月6日)に書いたメッセージを読んだ。一行目が目に入ってきた瞬間、涙が出てきた。「君は、無理して立ち向かわなくていいん…

加齢効果?

松岡正剛の『遊学』(?・?)はとてつもなく面白い本だった。ありとあらゆる「ジャンル」の書物を思いもかけなかった地点から切り開いていく光景に目眩がするほどで、ほぼすべての項目が僕の思考を距離なしに活性化してくれた。一気に読めて(読むしかない)…

中西準子の宇井純追悼文

中西準子氏のサイトで、先日亡くなった宇井純氏への追悼文を読む。ずっしりと胸に迫る、というのはこういう感じだったか。 僕が「社会問題」というものに初めて目を見開かされたのは、10歳の夏に読んだ『公害のはなし』という本によってだった。いちばん好き…

ユルゲン・ハーバーマス

2006年10月5日(金) 今日のロースクール・コロキアムのゲスト・スピーカーはユルゲン・ハーバーマス氏。「公共領域における宗教」という題のペーパーがあらかじめ配られていたのだが、僕は日本語での仕事に専念していて、半分も読めないまま出席する…

コロキアム「法・政治・社会哲学」始まる

2006年9月7日 いよいよ新学期。大学界隈にはいつのまにか学生たちが溢れていた。ぼくもいままでのアパート⇔図書館往復ライフからようやく抜けだし、今日が初日の"Colloquium in Legal, Political and Social Philosophy"に出席した。NYUはどの建物に入るのに…

戦争と革命と障害者

川端利彦「戦争の役にたつ」「革命の役にたつ」ってどういうこと? http://www.hi-ho.ne.jp/soyokaze/kawabata.htm「精神障害者は革命の役にたたない。それより外科、内科などの技術を身につけて山村工作に加わるべきだ。」……そういう考え方が何かクールな、…

二つの国家観

内藤朝雄「二つの国家観」(『図書新聞』第2782号、2006年7月15日、時評思想)が激オモ。国家観には二種類ある。ひとつは「国家を、一人一人の人間の共存と福祉のための公共財である機械装置(からくりしかけ)と考えるもの」で、このような国家は「水道や電…

見田宗介『社会学入門』ほか

御大・見田宗介さんの最新著。これは不思議な本だ。ある意味で非常にオーソドックスな社会学史をふまえた近代化論が展開されているのだが、全体としては見田宗介/真木悠介の作品としか言いようがない感触に包まれている。個別の論点としては、<他者の両義…

齋藤純一『自由』

岩波「思考のフロンティア」シリーズの一冊。非常に良い出来。形而上学的な自由意志論や経済学的な議論はばっさり省かれているが、政治哲学的な「自由」の思想史として超高密度にまとまっているだけでなく、言及されるすべての思想家や思想潮流それぞれの独…

思索日記

ハンナ・アーレント『思索日記 ?』(邦訳・法政大学出版局)は、一行一行が濃密すぎてなかなか読み進めることができない。最初のほうに出てくるこんな断章から、何冊もの本が生みだされそうだ。 人間は一つの潜在的可能性であり、すべての人間には本質的に同…

生と権力の哲学ほか

檜垣立哉『生と権力の哲学』(ちくま新書)。フーコーのいわゆる「生権力」論と、それをめぐるドゥルーズ、アガンベン、ネグリらの批判的展開についての要約・解説として、よくまとまっている。フーコーたちの本を読んで頭を抱えている大学生諸君には良いガ…

補足・「愛国心」の基礎

『全体主義の起源』のドレフュス事件に関する記述には、ドレフュスを擁護したクレマンソーの次のような言葉が註として添えられている(邦訳第1巻、175頁)。「愛国主義のためには祖国がなければならない。そして正義なしには祖国はない。法律なしには祖国は…

犯罪、自由、『全体主義の起源』

物心ついたころに「三億円事件」や「大久保清事件」に強烈な印象を受けたせいなのか、子供の頃のぼくは犯罪というものにものすごく興味があって、学研から出ていた犯罪や科学捜査の紹介本を繰り返し読んだものだった。中学一年のときには<ケネディ暗殺の真…

現象学

「現象学」という言葉は、今なお僕の中に――“村の娘を呼ぶように”(谷川雁)とはいかないまでも――どこか心が躍るような、秘密の憧れめいた、まだ見たことのない場所へ足を踏み入れようとするときのような、あのえもいわれぬ感情を喚起する。たぶん一種のノス…

意識の自然

谷徹『意識の自然:現象学の可能性を拓く』(勁草書房)を読了。久しぶりの現象学。爽やかに晴れ渡ったゴールデン・ウィークの数日間をかけた甲斐は、じゅうぶん以上にあった。2段組で730ページを超える超重量級の本格的な研究書であるにもかかわらず、おそ…

あっかんべェ一休

Mと「禅の考案と私的言語」的な話をしていたら、久しぶりに坂口尚の名作『あっかんべェ一休』(上・下、講談社漫画文庫)が無性に読みたくなり、押し入れの奥の段ボール箱から引っ張り出して、ついついイッキ読みしてしまった。ちょっと文字が多すぎて、文…

『ホテル・ルワンダ』、神崎繁『フーコー』

『ホテル・ルワンダ』を観た。レイトショーは今週の金曜日(14日)までで、それ以降はモーニングショーだけになってしまうので、昨日の夜、あわてて観に行ったのだ。 内容は圧倒的だった。ルワンダ内戦の惨劇を描くドキュメンタリーを基調に、主人公をめぐる…

イチロー、松井、王、張本、金田

世の中、というか少なくともネットの世界で、自分以外の議論に対するアイロニカルな梯子はずしが蔓延しているのは、北田暁大の快著『嗤う日本の「ナショナリズム」』(NHKブックス)が見事に記述・分析した通りだ。言うまでもなくそれはしょーもない知的退廃…