『二十世紀の法思想』

 中山竜一『二十世紀の法思想』(岩波書店)を読む。「岩波テキストブックス」という、「有斐閣アルマ」の1・5倍という感じの教科書シリーズの一冊で、内容は題名通り。
 これが、いやもう滅法面白い。教科書(と銘打っているだけでなく、内容や書き方も実際に学部生向けにわかりやすくできていると思う)でこれほど血湧き肉躍る、しかも記述が濃密でタメにもなる本はあまりないのではないか。誇張なく、ページを繰る手が止まらないほどである。
 「法の自立性」をどう考えるか、という問いを縦糸に、「言語論的転回」がそこにどう作用したかを横糸として、H・ケルゼンの純粋法学、H・L・A・ハートの『法の概念』、R・ドゥオーキンの解釈的アプローチ、ポストモダン法学(批判法学とシステム理論)という4つの主要なトピックが立てられ、補論「脱構築と正義」ではJ・デリダ『法の力』がアメリカの批判法学に与えたインパクトが論じられる。それ以外に、ラートブルフとWW?後の再生自然法論やJ・ロールズ『正義論』、フェミニズム法学等についての7つのコラムが挟まる。どの章でも、扱われる文献については理路整然とした、かつ情報量豊富な要約がなされ、しかし著者の一貫した視点から、かなり掘り下げた批評や問題提起も行なわれる。
 特に印象に残ったのは、ドゥオーキンのゼミにも出ていた著者らしく、<実践活動としての法>という視点を重んじつつ、その地平でデリダ脱構築の意義をしっかりと把握していること。いわゆるポストモダン思想を「ポモ」だのなんだのと軽薄に蔑視してみせる類の才人風とは天と地の差だ。法学者でも、本当に真面目な人(これは「不真面目」の対義語であると同時に、「クソ真面目」の対義語としても使っている)っているんだなあと思う。
 単純に現代の法思想の主流について押さえておきたいという人以外にも、欧米の「現代思想」に興味があるんだけど、どうも文学テクストの細かい読解とかに入り込めず、やっぱり何らかの意味で「社会」的な問題に接するようなことを勉強したいなあ、と思っている学生諸君に、自信をもってお薦めしたい良書だ。いや、明学の社会学科の学生諸君も、社会常識と思って読みなさい。わからない箇所は僕に質問してくれれば応えるし(自分もわからんところは勉強する)、それよりもきっとI大先生がもっと詳しく教えてくださるよ。