Michael Moore plays Bob Dylan's songs

 ボブ・ディランの曲はシンプルで原始的だ。カバー・バージョンは多いが、その粗野な力の核心を真につかみとった演奏は少ない。何しろディラン本人さえもが、演奏する度に理想のバージョンを探しあぐねて手を焼いているのだ。

 ジャズの分野では、古くはキース・ジャレットによる「マイ・バック・ページズ」の儚くも美しい名演があるが、比較的新しいものでは、マイケル・ムーア(アルト・サックス他)、リンゼイ・ホフナー(ベース)、マイケル・ヴァッチャー(パーカッション)というトリオによるボブ・ディランのカバー集『'Jewels and Binoculars' the music of Bob Dylan』もなかなか良かった。ヨーロッパ風に洗練された、著しく温度感の低いアレンジと演奏だが、音楽のテンションは高い。ポップス、ロックを聴いていて、ジャズにも興味があるがとっつきにくいという人にも薦められる。音質も素晴らしいから、できるだけ良いオーディオ装置をきちんとセッティングして、心をしずかにしてから聴いてみてほしい。間違っても、圧縮されまくった音をチンケなヘッドホンで、電車の中なんかで聴き流すのではなく。