楢山節考

 母に頼まれて録画しておいた木下惠介監督『楢山節考』をDVDにコピーして、確認のために軽い気持ちで見始めたら、ぐいぐい引きずりこまれて止まらず、最後まで息を呑むように観きってしまった。これほどの傑作だったとは、今まで知らずにおいたのは不徳のかぎり。今村昌平監督の新しいやつは一応観たが、あき竹城が出ていたな〜ぐらいの印象しか残っていない。それに対して木下版はすべての場面が凄まじいまでに虚構として練り上げられた映像美、物語りの運びは一瞬たりとも緩むところなく、全編に鳴り響く琵琶の音と琵琶法師の声(ですよね?)が異様な緊迫感を湛える。深沢七郎の原作のあの人を食ったような軽みこそ希薄だが、独立した映画として完璧な世界を構築している。田中絹代も凄い。昭和33年にこんな映画がつくられていたとは。
 『木下惠介DVD BOX第5集』に贈られた「みでじゃ」氏の解説も参考になります。それにしても俺がガキの頃は、TVで「木下惠介アワー」を毎週観ていたなあということを思い出した。一個ずつのストーリーは覚えていないが、子供心に何となく「しん」とした感じを抱いたことは微かな記憶としてある。