思索日記

 ハンナ・アーレント『思索日記 ?』(邦訳・法政大学出版局)は、一行一行が濃密すぎてなかなか読み進めることができない。最初のほうに出てくるこんな断章から、何冊もの本が生みだされそうだ。

 人間は一つの潜在的可能性であり、すべての人間には本質的に同じ可能性がある――そしてすべての道徳的判断はそのことにもとづいている――と信じている限り、愛が何であるかは決して分からない。愛において人に現れるものは「潜在能力(potentia)」ではなくて、われわれが怖れや希望を抱かずに受け入れるほかない現実である。(21頁)

 「人間」の廃棄といった威勢のいい掛け声にとって最大のアポリアは、たぶん「人間」とともに近代的な「平等」も廃棄されねばならないだろう、ということだ。アーレントはこの焼け付くようなポイントを凝視しつづけた。たいしたものだ。ただしそのことは、近代的ではない、「人間」や人権思想とも別の「平等」がありうることまでも、直ちに否定するものではないだろう。