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ヒア・イズ・ホワット・イズヒア・イズ・ホワット・イズ
ダニエル・ラノワ

ミュージック・シーン 2008-04-25
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 奇才ダニエル・ラノワの最新作。ブライアン・イーノとともにU2をプロデュースして、彼らの音にどこまでも奥深く拡がる空間を与えたことでよく知られている人だが、ミュージシャンとしてソロ活動もしていて、独自のお耽美な世界を構築しつづけている。

 今回のやつは自分がモロッコへ旅する様子を撮ったドキュメンタリー映画のサントラという位置づけらしく、ときどきインタビューがはさまったりするのだが、それが作品としての風通しのよさにつながって、ここ二作ばかりのあまりに高密度な閉塞感がなくなった。

 それより何より、いつも通りの甘〜く切な〜いメロディがかつてなく甘さと切なさを増していて、聴いているとなぜか説明できない郷愁に心臓をきりきりと絞られ、嗚呼殺したいぐらい大好きなあの人の腕に抱かれて死んでゆきたい、とそんな気持ちになるしかない。聞くところによると、ラノワは仕事がどんなに立て込んでいても無理矢理ロンドンにいるカレシのところへ会いに行ってしまうような人らしい。このアルバムは、ラノワに〈現実の傍らの森〉を求める僕にとっては文句なしの最高傑作であり名作である。こういう作品に出会うたびに、音楽の素朴な力を改めて思い知らされるのは、素敵なことだ。

 ラノワのプロデュース作はたくさんあるのだが、僕がいちばん好きなのは、これの最後に入っている"Series of dreams"という曲。

The Bootleg Series, Vols. 1-3 (Rare & Unreleased) 1961-1991The Bootleg Series, Vols. 1-3 (Rare & Unreleased) 1961-1991
Bob Dylan

Special Music 2002-08-06
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 この曲はラノワがディランの『オー・マーシー』をプロデュースしたときのボツ作品らしいのだが、とても信じ難い。ディランの、後期の最高傑作のひとつといっていい出来映えなのだ。少なくとも、『オー・マーシー』に入っているどの曲よりもずっと素晴らしい。だが、なぜディランがこれをアルバムに入れなかったのか……その理由も何となくわかる気がする。この曲の音世界は、あまりにもダニエル・ラノワ過ぎるのだ。要するにU2と同じということで、そのことにディランのプライドがこだわりを持ってしまったのではないか。でも、ラノワが創造した、あの広大無辺の荒野に独り佇むボブ・ディランのしゃがれ声を、変則的なかたちではあれ聴くことができたのは、僕にとっては僥倖だった。それは、魂の細胞から染み出してくる液体のような〈弱さ〉に飲み込まれそうになるとき、それを打ち消すようにどこからか、けたたましく鳴り響く、鐘のように、あるいは哄笑のように、力強く、完璧な音楽なのだから。

 おまけ。物狂おしいメロディと歌声という点で、ラノワに勝るとも劣らない作品は、これしかない。

アイ・アム・ア・バード・ナウアイ・アム・ア・バード・ナウ
アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ

Pヴァインレコード 2005-05-13
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