スタージョン『[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ』

[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ (河出文庫)[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ (河出文庫)
シオドア・スタージョン 若島 正

河出書房新社 2010-11-05
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 久しぶりのスタージョン。一年前に文庫版が出た未読の短編集を通勤読書。なぜかもう十年近くつづくスタージョンのプチ・ブームはどこまで行くのだろう。それはともかく、ここにもまさしくスタージョン的なモチーフと文体が満載で、読み終わるのが惜しくなる本だった。スタージョン的モチーフとは、無理矢理まとめれば〈ダメダメな奴らが実は神々〉ということだが、でもそれはニーチェルサンチマンの爆発みたいな話では全然なくて、どうしようもない哀しみに満ちた認識であり、しかも最終的には肯定的なのだ。代表作である長編『人間以上』で語られる(誰かの表現を借りるが)〈超能力をもつ不具者たちの超孤独と超悲しみ〉、そして付け加えるなら〈超共同性〉がその最高の結晶だろうが、本書に収録されたやや長い表題作や短編「必要」でもその片鱗をちゃんと読み取れる。人間なんてヘドが出る、せいぜい今の十分の一ぐらいの人数でいいと心の底から思いつつ、「橋から落下して動けなくなったクルマの中で、お爺さんと小さな孫と犬が一晩中身を寄せ合って寒さをしのいだ」とかいった実話につい「ああよかった」と胸を撫で下ろしてしまう超人ならぬ小市民たちに、どれでもいいから、スタージョンを読むことを勧めたい。
 ところで、僕が今まで読んだ中でいちばん感動したスタージョン作品は、中村融編のアンソロジー『20世紀SF〈2〉1950年代 初めの終わり』(河出文庫)に収録されている「たとえ世界を失っても」。SFにしかありえないロマンチシズム、SFでしか描き得ない哀しみを湛えた、究極の恋愛小説である。かつて短編集『一角獣・多角獣』(早川書房)の日本版からは削除されたといういわくつきの作品で、同書の再刊版にもやはり収録されていないようだから、邦訳で読めるのは上記アンソロジーだけのようだ。
20世紀SF〈2〉1950年代―初めの終わり (河出文庫)20世紀SF〈2〉1950年代―初めの終わり (河出文庫)
レイ ブラッドベリ フィリップ・K. ディック リチャード マシスン ゼナ ヘンダースン ロバート シェクリイ 中村 融

河出書房新社 2000-12
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人間以上 (ハヤカワ文庫 SF 317)人間以上 (ハヤカワ文庫 SF 317)
シオドア・スタージョン 矢野 徹

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(いつのまにか、こんな今風?の表紙になっていたのね……)

一角獣・多角獣 (異色作家短篇集)一角獣・多角獣 (異色作家短篇集)
シオドア スタージョン Theodore Sturgeon

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