イーグルス「テイク・イット・イージー」

 音楽ジャーナリストの佐々木美夏さんが12人のミュージシャンたちに14歳の頃の自分について聞いたインタビュー集『14歳』がとても面白かった(登場するのは、古市コータロー(THE COLLECTORS)、岡村靖幸TOSHI-LOW(BRAHMAN)、鈴木圭介(フラワーカンパニーズ)、フミ(POLYSICS)、浅田信一草野マサムネ(スピッツ)、武内享(ex.チェッカーズ)、坂本美雨、TAKUYA(TAKUYA and THE Cloud Collectors)、山口 隆(サンボマスター)、和田 唱(TRICERATOPS))。すでに『PATi-PATi』という雑誌(その後休刊)に連載されたショート・バージョンで泣かされ済みの古市コータローが語る、父親に続いて母親をも闘病の末に失うに至るまでの数ヶ月のストーリーをはじめ、指名手配中のヤクザ男と逃げる母親に捨てられた浅田信一、この世の地獄のような全寮制進学校での狂気の日々(と全く助けになってくれない親たち)を振り返る元ジュディ・アンド・マリーのTAKUYAのようにヘヴィーな追想もあれば、サンボ山口のように中学時代は楽しくて楽しくて仕方がなかったという人、またトライセラ和田や坂本美雨のように有名人かつ一風変わった両親をもったがゆえのあれこれもあって、一気に読了プラス繰り返し読んでしまう。

 14歳の時、自分は何をしてただろう。中学二年の頃、服装規定がうるさく、僕が入学する数年前までは男子は全員丸刈りを強制されていた地元の公立中学(それが廃止されなければ、小学生の僕は中学受験か越境入学を試みていただろう)では、僕を含めワンポイントの柄が入った靴を履いている奴らが校庭に残されて説教されるなんてのは日常茶飯事だったが、いちばん酷かったのは、ちょっとだけ髪を伸ばしてマッシュルーム・カット風にしていた僕があるとき職員室に一人だけで残され、授業が始まっているのに、中年の女性教師二人にねちねち説教されたことだ。人の教育を受ける権利を侵害しやがって。その二人の教師に対する軽蔑は、それから35年経っても全く変わっていない。その頃、こういうくだらない大人にだけはなるまいと思わせてくれたくだらない大人には何人か出会ったが(駅の人混みのなかで煙草を吸っていて、僕の手の甲に火を押しつけたことにも気づかずに行ってしまった若いサラリーマン風の男、等々)、その二人もそうした連中の一員だった。もっとも、長く生きていれば偉いわけじゃないということを教えてくれた反面教師という意味では、優れた教師たちだったのかもしれない(ちなみに、美術の授業中に騒いでいたせいで、若い男の臨時教師に丸めた教科書で頭を引っぱたかれたことがあるが、こちらに対しては懐かしいだけで、何の恨みも軽蔑もない。その当時からなかった。水彩絵の具で思いがけない綺麗な色を作った生徒を、というよりはその色彩そのものを率直に賞賛したりすることもあって、美術が好きなんだなあということがよくわかる人物だったからかもしれない。「体罰」ではなく「言葉」で指導せよ、などという粗暴な理論を僕はけっして信用しない)。
 とはいえ、全体として学校生活はそれほど面白くもないがTAKUYAのように地獄というわけでもなく、他には特に面白いエピソードはなかった気がする(強いて言えば、修学旅行にコンドームをもってきたバカがいて、それを僕ら数人の仲間も――実はかなり引きつつも――なぜか分けてもらって持っていたのを担任に見つかり、後日学校に親が呼ばれたり、というぐらい。僕のうちでは特に怒られず、親に対して悪かったなあと思うぐらいで済んだが、Nというやつのところでは親父さんが激怒して、山奥の中学に転校させる云々の騒動になったらしい)。

 音楽では、相変わらずビートルズと、メンバーたちのソロ作を聴いていた。もっとも、ポール(とウィングス)の『ヴィーナス・アンド・マース』が大好きで、ジョンはまだ聴いていなかった。ウィングスが来日するというので、友達が頑張って武道館の前から2列目のチケットを取ってくれていたのに、ポールご本尊がマリファナ所持で入国時に逮捕されてお流れになってしまったのも中二のときだったはず。あのときは本当に空しくて、そのせいか、その後ポールが何度か来日してもどうも行く気がせず、結局このまま一生ポール・マッカートニーをこの目でみることはなさそうだ。
 ビートルズ以外のロックや、クラシックも聴き始めていた。そのころ、特に衝撃を受けたレコードが二枚ある。どちらも1976年に出たものだ。ひとつは、カラヤン指揮、ベルリン・フィル、ソプラノはアンナ・トモワ・シントウのモーツァルト『レクイエム』で、何か見てはいけないもの、覗き込んではいけない領域を垣間見てしまったように感じた。その美しさは畏敬の対象というよりも、ほとんど恐怖を催させた。それ以後、それほどまでに揺さぶられた音楽はない。演奏そのものは、その後主流になっていく古楽系のこざっぱりした演奏に比べると厚化粧もいいところで、ましてカラヤンの豪華絢爛流麗な節回しが全編にわたってうなりまくるのが暑っ苦しいかぎりだが、しかし今風の演奏にどうしても物足りなさを感じてしまうのは、このレコードで『レクイエム』と出会ってしまったことの後遺症だろう。
 もうひとつは、イーグルスホテル・カリフォルニア』。『FM fan』という雑誌の新譜紹介欄に出ていたジャケットを見て何やらざわめきを覚えた僕は、イーグルスというバンドのことはよく知らずにそのLPをいわゆるジャケ買いしたのだったと思う(乏しいお小遣いから毎月1枚ずつLPを買っていた中学生としては冒険だ)。そしてジャケットの印象通りの内容に打ちのめされた。60年代スピリットの終焉とそれ以後の痛々しい退廃を皮肉った歌詞の意味も、訳詞や評論を読んで、おぼろげに理解した。今でもタイトル曲を聴くと、その非の打ち所のない構築に感嘆せざるをえない。その背後で高まっていったメンバー間の軋轢については、「ホテル・カリフォルニア」の原作曲者で当時のギタリストだったドン・フェルダーの回顧録に詳しく書かれている(誰にもまねのできない鋭い歌詞を書いていたリード・ヴォーカルのドン・ヘンリーの強烈なアーティスト・エゴには、なるほどなあという気がした。先日アメリカのTVで放映されて話題になったドキュメンタリーも面白そうだ)。
 
 それでイーグルスが好きになって、しかし他のレコードをどんどん買う財力はなかったから、当時のほとんどの中学生と同じようにFMからのエアチェックに精を出した。今、全アルバムを並べて聴いてみると、『ホテル・カリフォルニア』ももちろん良いのだが、アルバムとしての最高傑作は『呪われた夜』だと思う。冒頭のタイトル曲(ドン・フェルダーのギターソロは「ホテル・カリフォルニア」に勝るとも劣らない見事さだ)をはじめ、すべての曲が素晴らしく、弾むベーシスト、ランディ・マイズナーのしみじみ聴かせる名曲「テイク・イット・トゥ・ザ・リミット」も入っている。この2枚に、ファーストの『イーグルス』を加えた3枚が、僕にとってのイーグルス・ベスト・スリーだな。
 そして、ただ1曲だけを選ぶとすれば、「ホテル・カリフォルニア」ではなく、ファーストの代表曲「テイク・イット・イージー」をとる。アコースティック・ギターバンジョーも入った、いかにも爽やかで脳天気なカリフォルニア・サウンドのイメージそのままの穏やかな曲なのに、どこか暗く閉塞した感じ――後に「ホテル・カリフォルニア」がそれと正面から向き合うことになる――が、すでに隠しようもなく曲を覆っている。そして曲以上に歌詞がこたえる。最後のサビの直前に登場する"lookin' for a lover who won't blow my cover, she's so hard to find"という一節は、あらゆるロックの歌詞のなかで最高の一節だ、と言っておきたい(「ミスター・タンブリン・マン」の"Let me forget about today until tomorrow"と並んで)。

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佐々木美夏

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 ちなみに、最近僕は初期5枚のハイレゾ・ファイル(192kHz/24bit)を手に入れて、もっぱらそれでイーグルスを聴いている。「テイク・イット・イージー」のコーラスの奥行き感、「ホテル・カリフォルニア」のギターの艶やかさは、たしかにCDを超えている(入手元はこちら→HD Tracks)。ある程度以上の装置を持っている人にはぜひお勧めしたい。(僕はパイオニアのN-50という、実売4万円台のネットワーク・プレーヤーを使ってLANから再生しているが、この程度の装置でも十分に「凄い」音が楽しめます)。