浅野智彦『「若者」とは誰か:アイデンティティの30年』

 

「若者」とは誰か: アイデンティティの30年 (河出ブックス 61)「若者」とは誰か: アイデンティティの30年 (河出ブックス 61)
浅野 智彦

河出書房新社 2013-08-13
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 卒論や修論(!)を書いている学生がしばしば「アイデンティティ」という言葉を使うのだが、「それはどういう意味?」と質問して、まともな答えが返ってきたためしがない。ある4年生などは、それをきっかけに、「アイデンティティ」を分析概念として振り回すのをやめ、卒論のテーマまで変えてしまった(こういう人を「地頭がいい」というのだ)。「アイデンティティ」は便利な言葉だが、当然のことながら、この言葉が便利である(と見える)という状況をも問いの対象とする、という多元的な視点がなければ、とうてい有効に使いこなすことはできない。
 本書は第1章でまさに「アイデンティティ」についてこうした二重の反省的検討を行うところから話を始めている。まずはここだけでも、「アイデンティティ」とか「文化」とか言っているゼミ生たちに読ませなくては。それ以降の本論はまだ読んでいないが、「コミュニケーション」や「オタク」をキーワードにする卒論が定常的に多発している昨今、本書全体も必読文献として推薦する機会が多くなりそうだ。(もっともワタクシは来年度はサバティカルですけどね♪)

鈴木晃仁(編)深津武馬、市野川容孝(著)『【対話】共生 (極東証券学術講座 生命の教養学VIII』

【対話】共生:生命の教養学VIII (慶應義塾大学教養研究センター極東証券寄附講座―生命の教養学)【対話】共生:生命の教養学VIII (慶應義塾大学教養研究センター極東証券寄附講座―生命の教養学)
慶應義塾大学教養研究センター 鈴木 晃仁 深津 武馬 市野川 容孝

慶應義塾大学出版会 2013-08-11
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 慶応大での極東証券による寄付講座の記録。後半の市野川による講義録だけざっと目を通したが、生物学と社会学における「共生」概念の違いから始まって、遺伝子診断、出生前診断、ナチズム、尊厳死安楽死という4つのテーマに即して、ありうべき「共生」――市野川は昨今しばしば軽薄に用いられることもあるこの日本語を、イヴァン・イリイチのconvivialityに由来するものととらえている――を、きわめて平易な語り口で論じている。小生が秋学期に担当する「生命の社会学」の必読参考文献としたい。いや、いっそ教科書でもいいかな。

西阪・早野・須永・黒嶋・岩田『共感の技法:福島県における足湯ボランティアの会話分析』

共感の技法: 福島県における足湯ボランティアの会話分析共感の技法: 福島県における足湯ボランティアの会話分析
西阪 仰 早野 薫 須永 将史 黒嶋 智美 岩田 夏穂

勁草書房 2013-07-31
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 副題に明示された通りの内容。調査(と、あえて表現しておきたい)は現在も継続中だが、ひとまずの区切りとしてまとめられた論文集だ。会話分析とは何をすることかについて知りたい読者に好適。と同時に、福島県の――間違っても「フクシマ」だの「FUKUSHIMA」だのではない――ある場所で何が起きているか、人びとがどのように生活しているかの断片を知るためにも貴重な文献であろう。

『スタートレック イントゥ・ダークネス』

 想像を遙かに超えた全編ドンパチ娯楽活劇であった。少しは休ませてくれよと言いたくなるくらいめまぐるしく濃密に展開するストーリーに、3Dを完全に消化した映像の文句なしの迫力。現実社会との対応という面から見ると、9.11以降の人類に降りかかったあらゆる災厄がパワーアップしつつ束になってカークを襲いまくり、人類の運命を背負ったカークが繰り返し決断を強いられる姿からは、他人事ではないという重みが伝わってくる。劇場(TOHOシネマズ六本木ヒルズ、スクリーン2)で観るために払ったお金の元は十分に取れたのだけれど……これは本当に「スタートレック」なのか?という疑問が、観ている間ずっと脳内をぐるぐるしていた。だいたい、あんな熱血漢のスポックなんて……。
 もっとも僕はオリジナルのTVシリーズと1979年の初代映画版が大好きで、80年代以降のTVシリーズも映画版もあんまり観ていないので、こんな違和感は、そういう恐竜のようなファンの戯言に過ぎないのかもしれない。ラストシーンのカークによる「憎悪と復讐の連鎖はやめましょう」(大意)という演説はどうにもとってつけた感じだが、でもそのゆるさが、かえって往年のスタートレックらしさをちょっぴり感じさせてくれたような気もするほどだ。
 でもなー、Wikiによると監督は『スタートレック』よりも『スターウォーズ』のファンだそうだけど、この内容ならやっぱりそういう映画として撮ればよかったんじゃないの、とどうしても思ってしまうね。何よりエンタープライズ号には、未知の領域を探索してほしい。観客としては、そこで戸惑ったり、身勝手な行動に走るカーク船長に突っ込みをいれまくる楽しみを奪わないでほしい。そういうわけで、初代映画版が久しぶりに観たくなった。

スター・トレックI/リマスター版スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]スター・トレックI/リマスター版スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
ハロルド・リビングストン

パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン 2012-02-10
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 ところで、映画館に入る前に森ビル内のスタバで「チャイティーラテ」を飲んでたんだけど、このあいだニューヨークでさんざん飲みまくった味の印象がまだ残っていて、日本のやつは妙に薄く感じ、ちょっと損した気分がした。クリームも、アメリカではこれでもかというほどもっとたっぷり乗せてくれてたぞ!

平岡章夫『多極競合的人権理論の可能性:「自己決定権」批判の理論として』

多極競合的人権理論の可能性―「自己決定権」批判の理論として多極競合的人権理論の可能性―「自己決定権」批判の理論として
平岡 章夫

成文堂 2013-06
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 国会図書館に勤めながら早稲田で本書の元になる博士論文を書いた著者とは面識はないが、本書中で拙論を取り上げて批判してくれているので御恵投くださったのだと思う。「人権理論と政治哲学との接合を目指す一つの試み」として、人権および権利の概念を大胆に見直す作業の一環として「自己決定権」概念を否定的に論じる書。第3章第4節「加藤秀一による自己決定権分析」において拙論(加藤秀一「身体を所有しない奴隷:身体への自己決定権の擁護」『思想』2001年3月号)が論究されている。この論文は、当時の自分としてはそれなりに野心作だったが、例によって例の如く、付け焼き刃の政治哲学と分析哲学によって(こちらは付け焼き刃ではない)フェミニズムの議論を強化しようとほぼ無手勝流で悪戦苦闘した結果として明晰さを欠き、おそらくそのために目立った(肯定的であれ否定的であれ)反応を得られなかったので、少々寂しい思いをしていた。それが10年経ってからこうした検討の対象にされるのは嬉しいことだ。
 まだ全体をきちんと読んでいないので、議論の内容についての論評は差し控える。たぶん、こちらからの応答は、上の拙論を書いて以降じゅうぶんには前進させられていない自分自身の作業をここら辺でしっかり再発進させることによって果たすべきだろうし、本書の議論をそのための糧とさせてもらえればいいなと思う。

森岡正博『まんが 哲学入門――生きるって何だろう?』

まんが 哲学入門――生きるって何だろう? (講談社現代新書)まんが 哲学入門――生きるって何だろう? (講談社現代新書)
森岡 正博 寺田 にゃんこふ

講談社 2013-07-18
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 いつもいただいてばかりですみません。

小松美彦『生権力の歴史』

生権力の歴史―脳死・尊厳死・人間の尊厳をめぐって生権力の歴史―脳死・尊厳死・人間の尊厳をめぐって
小松 美彦

青土社 2012-11
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 既発表の論文3つに加筆修正し、書き下ろしの章2つを併せて一書としたもの。まだ熟読はしていないが、ざっと眺めたところ、現在の著者の考えがまとまったかたちでよくわかる本であるように思われた。