西岸良平のSF

「コスモゾーン」は『三丁目の夕日 夕焼けの詩』第20巻の巻末に収録されている独立性の高い短編である。――時は2385年。人類は宇宙空間に巨大な未来都市「コスモゾーン」を築き上げていたが、果てるともない人口増によって、相変わらず都市は過密状態であった。星間宇宙船のステーションに「立川星」「新宿星」「高尾星」といった名前がついていて、通勤用宇宙船が巨大な電車型である、といった舞台設定も素敵なのだが、何より強烈なのは、超高齢化による介護負担を解決する手段として登場する「細胞変換手術」である。これは「ボケ老人を、子猫と、人間の赤んぼうをミックスしたような可愛らしい小動物に変えて、世話をする家族の肉体的精神的負担を軽く」する手術なのだ。主人公である小学生の太郎が、ある時、いつもの駄菓子屋に行ってみると、可愛がってくれたおばあさんが手術を施されていて、孫娘の手に抱かれて「にゃ〜ご」とか言っている……。そして、自分の大好きなおじいちゃんも手術を受けさせられそうであることを知った太郎は、次の夜中、おじいちゃんを連れて逃避行の冒険に出かけるのだ。
 ボケ老人を愛玩動物に変える細胞変換手術――コニー・ウィリスだったら、あるいはシオドア・スタージョンだったら、このアイデアを、密かに心拍数を上昇させるような、グロテスクでしっとりとした短編小説に仕立て上げてくれたかもしれない。しかし西岸良平のあの絵柄によってそれがあっさりと具象化されるのを見ると、どうにも脱力感に襲われてしまうのだが、しかし何か不快なものの核は読む者のなかに残って、じわじわと膨らんでくるのである。リアルっす、リアルすぎるっす――と、中崎タツヤ『じみへん』の重要人物である小学生女子のように、思わずつぶやいてしまうのだ。