手塚治虫の描いた戦争 (朝日文庫) 手塚 治虫 朝日新聞出版 2010-07-07 売り上げランキング : 77775 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
でも今の僕が何より彼らに追体験してほしいと切に思うのは、手塚が体験した戦争だ。『来たるべき世界』のラストシーン、「すべての国民が死に絶えた地上で「平和が来た」と叫ぶ独裁者」の神話的ビジョンをパワーポイントで見せる。本当は、個人的に偏愛している名短編「カノン」について語りたいところだが、これは手塚自身の「マンガ=記号説」を自らあっさり裏切ってみせる描写が炸裂することもあって、なかなか難しく、今のところうまく授業に組み込めていない。上の文庫本は、僕自身は実物を見ていないが、この「カノン」や学徒動員を自伝的に描いた「紙の砦」などの傑作を収めていて入手しやすいようなのでリンクしておいた。
1980年の東京でのSF大会で、映画『盗まれた街』を見ていたら、僕の斜め一つ前の席にいきなり手塚治虫氏が座ったときの密かな興奮は、30数年が経ち、高校1年生がへべれけの中年大学教師になっても、ついさっきのことのようにありありと思い出せる。隣席の人と小声で挨拶をかわす手塚治虫その人の生き生きとした笑顔も。