よしながふみ『大奥』(8)

大奥 8 (ジェッツコミックス)大奥 8 (ジェッツコミックス)
よしながふみ

白泉社 2012-09-28
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 いや凄い……。どんどん凄くなる。よしながふみは、歴史を語る別のやり方を、すなわち歴史を通して現在を批評する別のやり方を、ここでほぼ完全に確立したのではないか。

 TVドラマ化されるというが、人間と組織の業を描き尽くそうとするこの企てを、ドラマというフォーマットにすんなり移し替えることができるとは想像しがたい。ひたすら「男女逆転」というわかりやすいキャッチコピーを打ち出している宣伝も萎えるには十分だ。そもそもこの作品のモチーフは単純な男女逆転ではない。むろん逆転したものはある、だがそのことが際立つのは、逆転していないものもあるからだ。前にも書いたが、その表裏を政治的にごまかさずに描くからこそ、『大奥』は紛う方なきフェミニズム漫画でありつつ、フェミニズムに対する容赦ない内在的批判にもなりえているのだ。

 それにしても、日本の漫画史という観点から言えば、現在最も先鋭なマンガ家たちがBL出身であり、決してBLを手放さないということの意味を、もっとよく考えて見なければならない、と改めて思わされた。ついでに、自分が仕事に向かう姿勢をも強力に反省させられた。恐るべきまんが体験であった。