三つの短編が収められている。死に瀕した人間が超知性宇宙生命体的な連中によって主観的には千年間にわたる天国か地獄を体験させられるという謎の舞台上で、胸に染みる中年男の純情ラブストーリーが繰り広げられる「辺獄にて」。遺伝子操作によって男も子供を産めるように変態させられたコミューンが主流権力によって解体させられた後、元コミューン住人たちが外の社会で過ごす日常の驚愕すべきほのぼぶりを描く「
三文未来の家庭訪問」。もうここまでで、型通りの人間像を巧みな掏摸のように脱臼させる作者の手際とイマジネーションの自在さに満腹するが、巻末の「パンサラッサ連れ行く」はそんなことも忘れさせてしまう迫力の
異世界單だ。今を遡ること数億年、前
カンブリア紀の海底で繰り広げられる、カナダスピス(たぶん
甲殻類に近い生物。甲の長さ10〜50mm超)とヨホイア(大きな触手に特徴がある。隊長7〜23mm)の賢者たちによる、種を超えた魂の交流。と説明しても何のことかわからないかもしれないが、とにかく絶望的な状況のなかを主人公たちがなお歩み続けようとする誓うラストの気高さに打ちのめされる。
三作品ともきわめて上質な現代SFであり、また、マンガ特有の技法を駆使することで、マンガにしかなしえない感動を与えてくれる傑作たちだ。こんな素晴らしい作品に出会えるのだから、マンガはやめられない。