スポック博士

 前に読んだ短編集『停電の夜に』がため息の出る出来映えだったので、ずっと読みたかったのだがなかなか手がかりのなかったインド系超美人作家ジュンパ・ラヒリさんの長編を、ようやく読み始めた。
 冒頭から、短編にもまして繊細で、容赦のない人間観察が流れてゆく。その最初の方のページに、ほおと思う一節があった。


 病院内の別の階で、待合室のアショケは『ボストン・グローブ』の紙面に上体を傾けている。一ヶ月前の新聞が隣の椅子に捨ててあった。民主党の全国大会があったシカゴで騒乱。赤ちゃんドクターのスポック博士に、徴兵拒否を教唆した疑いで懲役二年の判決……。
(ジュンパ・ラヒリ『その名にちなんで』小川高義訳、新潮社、16-17頁)

 民主党大会の騒乱というのは、シカゴの「1968年8月29日シカゴ,民主党大会」という曲のネタになった事件だな。
 しかし、あの革新的育児書のスポック博士がそんな目に遭っていたとは、知らなかった。調べてみると、後に連邦上訴裁判所が判決を覆したので、服役はさせられなかったようだが。

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