Spitz Complete Single Collectionと銘打たれた『CYCLE HIT 1991-1997』と『CYCLE HIT 1997-2005』(どちらも初回限定版はボーナス・ディスク付き)を通して聴いていると、改めて<時間>という経験の不可思議さに目眩がしそうになる。最初のシングル「ヒバリのこころ」から、売れ線を狙った模索期の開始を告げる『クリスピー』までの三年間は、ぼくにとってはそれ以降の十年間以上の歳月とほとんど変わらない長さだったとしか感じられないのだ。
それにしても、「ヒバリのこころ」「夏の魔物」「魔女旅に出る」という最初の三枚のシングル曲の、なんと妖しくも瑞々しいことだろう。最近の傑作「正夢」にさえ、周到にコントロールされたかたちで小出しにしかされていない秘密の媚薬が、これらの曲にはむせかえるほどの過剰な濃度で注ぎ込まれている。甲本ヒロト/真島昌利、浅井健一、吉井和哉、そして草野マサムネ……かれらが80年代から90年代にかけて日本という腐海の底で生命を与えた歌たちに匹敵するポップの硬度を、それ以降にかろうじて感じさせるのは、向井秀徳(ナンバーガール時代)と椎名林檎(現在に至る)のいくつかの曲しかないように思う。