マイ・フレンズ

マイ・フレンズマイ・フレンズ
黒柳 徹子

新潮社 1986-05
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 これは素晴らしい本だ。13人の友人たちをめぐる連作エッセイ。登場する人たちには、ユル・ブリンナー坂本九渥美清のように長年の交遊があった人だけでなく、テネシー・ウィリアムズや無名の「スターさん」のように、たった一度の邂逅で鮮烈な印象を残した人も含まれている。どの章も、たしかにその人の<これがいちばん魅力的な部分だろう>と思われるものを照らし出していて、しかも――こちらのほうがより得難い美徳かもしれないのだが――同じくらい著者自身の魅力を伝えている。
 すべての章がよくできた短編小説のような面持ちで深い余韻を残すのだけれど、とりわけアラン・ドロンとの一夜の話がよい。まだ若く、将来も約束されていない時期の、野心に満ちあふれたドロンが、営業用でもあり「素」でもあろう親しみやすい顔を見せた夜、追いかけてきた芸能記者に立ちふさがる場面の、まさしくマスイメージとしてのアラン・ドロンそのものの格好良さ。また、デカダンの果てに惨めな死を遂げる前のテネシー・ウィリアムズの、あまりにも「明るく良い人」ぶりのその哀しさ。新潮文庫では『トットのマイ・フレンズ』という題で出ているようだ。