チャールズ・ダーウィンが進化理論を練り上げていったその生涯においてどれほど反
奴隷制への情熱に突き動かされていたかを、彼の理論的著作、日記、同時代の諸文献や人びととの交流とのかかわりの中で余すところなく解明した力作。
ダーウィンその人が生きた時代には、進化論の重要な構成要素である人類単一起源説はむしろ古くさい考えとして劣勢で、人類多起源説にもとづく人類の序列化の方が支配的になりつつあったのだが、その只中で
ダーウィン自身も動揺をかかえつつ、しかしあくまでも
ダーウィン的進化の〈ロジック〉に忠実に、単一起源説を、すなわちあらゆる人種がただひとつの同じヒトという種であることを擁護し抜いたのだった。流行や時代の空気に流されないその知的強靱さには居住まいを正させられる。情報量はきわめて多いが、同時に(「
科学史」の著作と呼ぶのを躊躇するほど)著者たちの「社会派」っぽさを臆面なく前面にだしまくった、異様にアツい筆致で書かれているので、
ダーウィニズムの基礎的な理解と
ダーウィンその人への興味さえあれば、すいすい読める。ちょっとライエルやウォーレスに冷たすぎ、
ダーウィンに肩入れしすぎているかもしれない感もなくはないけれど。
下の写真は、この夏に行ったロンドン郊外にあるダーウィンの家(ダウンという町にあるので、通称ダウン・ハウスというらしい)。家そのものも可愛いのだが、広大な緑の敷地のなかに、森や散歩道や温室があって、こんなところに住んでいたら研究でもするしかないよなーとため息が出るような場所だった。開館時間は午前11時から午後5時だが、軽食も食べられるし、展示物も充実しているので、朝一で行ったのに、あっというまに閉館時間になってしまったほどだった。