2006-01-01から1年間の記事一覧

国連本部前にて

NYに来て数日の間、猛暑の中をひたすら歩いていたとき、虚を突かれたように印象に残った光景は、国連本部の真ん前で行なわれていたユダヤ人の小さな集会。ぼくが通りかかったのはもう終わりにさしかかったところで、十数人ぐらいの参加者を前に中年の男性…

ニューヨーク

2006年8月1日、「ほんとうに感情労働してるのか?」と疑わざるを得ないアテンダントたちと満員の乗客を乗せたユナイテッド航空機から、ようやくニューヨーク・JFK空港に降り立った瞬間、ドンという音がしそうな熱気の衝撃に襲われた。それから数日間は摂…

iPOD、英語

NYに出発する日が刻一刻と近づいていて、たまった原稿をやっつけるために必死にない頭を絞りつつも、その傍ら、iPODのいちばんデカい60Gのやつに手持ちのCDを片っ端から詰め込んでいる。256bpsの比較的高音質の転送レートで、もう2500曲以上入ったけど、あ…

戦争と革命と障害者

川端利彦「戦争の役にたつ」「革命の役にたつ」ってどういうこと? http://www.hi-ho.ne.jp/soyokaze/kawabata.htm「精神障害者は革命の役にたたない。それより外科、内科などの技術を身につけて山村工作に加わるべきだ。」……そういう考え方が何かクールな、…

漫画版『神聖喜劇』第三巻

予告通りに出た第三巻。前半は、「八紘一宇」の高邁なる理想をあくまでも信じる村上中尉と大前田の対決に、そしてあの忘れがたい「剃毛」のエピソードに至る不可思議な逢引の夜が挟まり、息を呑むような深い陰影が際立つ。そして後半では、「金玉はズボンの…

獣王星

アニメ化を記念してというわけではないけれど、ふと思い立って、樹なつみ『獣王星〔完全版〕』全3巻を大人買い、そして怒濤のように読了。内容は知っている人も多いと思うが、一応ネタバレに注意しつつ、ぼくなりに紹介してみよう。(設定についての説明は…

安倍晋三と統一教会

ところで、内藤朝雄のいう「毒物のような第二の国家観」を体現するような安倍晋三氏と統一教会との関係については、先月、安倍氏が統一教会系の集会に祝電を打ったことに対して弁護士が公開質問状を出したことが各紙で報道されたが(6月19日、20日)、それっ…

二つの国家観

内藤朝雄「二つの国家観」(『図書新聞』第2782号、2006年7月15日、時評思想)が激オモ。国家観には二種類ある。ひとつは「国家を、一人一人の人間の共存と福祉のための公共財である機械装置(からくりしかけ)と考えるもの」で、このような国家は「水道や電…

見田宗介『社会学入門』ほか

御大・見田宗介さんの最新著。これは不思議な本だ。ある意味で非常にオーソドックスな社会学史をふまえた近代化論が展開されているのだが、全体としては見田宗介/真木悠介の作品としか言いようがない感触に包まれている。個別の論点としては、<他者の両義…

齋藤純一『自由』

岩波「思考のフロンティア」シリーズの一冊。非常に良い出来。形而上学的な自由意志論や経済学的な議論はばっさり省かれているが、政治哲学的な「自由」の思想史として超高密度にまとまっているだけでなく、言及されるすべての思想家や思想潮流それぞれの独…

思索日記

ハンナ・アーレント『思索日記 ?』(邦訳・法政大学出版局)は、一行一行が濃密すぎてなかなか読み進めることができない。最初のほうに出てくるこんな断章から、何冊もの本が生みだされそうだ。 人間は一つの潜在的可能性であり、すべての人間には本質的に同…

生と権力の哲学ほか

檜垣立哉『生と権力の哲学』(ちくま新書)。フーコーのいわゆる「生権力」論と、それをめぐるドゥルーズ、アガンベン、ネグリらの批判的展開についての要約・解説として、よくまとまっている。フーコーたちの本を読んで頭を抱えている大学生諸君には良いガ…

日本人は英語のここが聞き取れない、ほか

『日本人は英語のここが聞き取れない』(アルク)は、アルクらしくコスト・パフォーマンスの高い良書。単なるディクテーションのトレーニング本なのだが、「ヒアリングマラソン」の受講者たちに間違いが多かったポイントに的を絞った問題が「これでもか」と…

楢山節考

母に頼まれて録画しておいた木下惠介監督『楢山節考』をDVDにコピーして、確認のために軽い気持ちで見始めたら、ぐいぐい引きずりこまれて止まらず、最後まで息を呑むように観きってしまった。これほどの傑作だったとは、今まで知らずにおいたのは不徳のかぎ…

補足・「愛国心」の基礎

『全体主義の起源』のドレフュス事件に関する記述には、ドレフュスを擁護したクレマンソーの次のような言葉が註として添えられている(邦訳第1巻、175頁)。「愛国主義のためには祖国がなければならない。そして正義なしには祖国はない。法律なしには祖国は…

犯罪、自由、『全体主義の起源』

物心ついたころに「三億円事件」や「大久保清事件」に強烈な印象を受けたせいなのか、子供の頃のぼくは犯罪というものにものすごく興味があって、学研から出ていた犯罪や科学捜査の紹介本を繰り返し読んだものだった。中学一年のときには<ケネディ暗殺の真…

戦う男たち、2匹の白い幼虫、海辺の家

昨夜、冬樹蛉さんの[間歇日記]世界Aの始末書で紹介されていたブログ特殊清掃「戦う男たち」(←読者を激しく選ぶ内容なので、まず「自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去まで施行する男たち」という副題を見て…

We Shall Overcome

ブルース・スプリングスティーンの意外な新譜、すべてピート・シーガーの曲のカヴァーという『ウィ・シャル・オーヴァーカム』は、予想をはるかに!超えて楽しい作品だった。この中で表題曲だけは1998年に企画ものアルバムでリリースされていたものだが、他…

レッド・ホット・チリ・ペッパーズ

……の新譜『ステイディアム・アーケイディアム』は、いいじゃないか。超傑作『カリフォルニケイション』のあと、僕には前作の『バイ・ザ・ウェイ』はむしろ地味で物足りなく感じたが、今度のやつは2枚組にもかかわらず、密度というか、「ついつい繰り返し聴…

ザ・ハイロウズ以後

1980年、ブルース・スプリングスティーンの新譜『ザ・リバー』を、胸を高鳴らせながら毎日繰り返し聴いていた高校生の僕は、「1980」という新しい数字に、根拠もなく未来への希望を感じる、(いま以上の)ただの能天気野郎だった。けれども、それから10年後…

マイ国家

ときどき考える。いま日本には外交、民族、ナショナリズムetc.といったかたちで噴出している、まとめれば<内と外>をめぐるいろんな問題があるけど、考えてみれば鎖国をやめてからたった140年、それ以前の鎖国期間のほうがまだまだはるかに長いのだから、こ…

「親学」とゲーム脳

きのうは東京都が第三次男女平等参画審議会委員に高橋史朗(明星大学教授)を選んだことに対する「憂慮」表明のため都庁に出向いた。高橋氏が「男女平等」についてどういうことを言ってきたかについては、数日前にもリンクしたこちらの後半部分が資料集にな…

〈私〉の感情?――グレッグ・イーガンとテッド・チャン

今日の午後は某社から出す共著の論集(社会学の教科書)のための研究会に出席。少人数の研究会とか読書会というやつにはとんとご無沙汰なので、ちょっと新鮮な気持ちになれてよかった。浅野智彦さんの感情社会学に関する示唆的な報告の冒頭にP・K・ディック…

漫画版・神聖喜劇

大西巨人の超傑作・大長編小説をのぞゑのぶひさ作画・岩田和博脚色で漫画化した『神聖喜劇』を読み出したら止まらず、抱え込んだ仕事に押しつぶされそうになりながら、ついつい逃避心が働いて、第2巻までイッキ読みしてしまう。これは渾身の力作といってい…

東京都男女平等参画推進審議会で起きている問題

これまで、男女共同参画政策やフェミニズムや性教育をさんざん罵倒し、でっち上げまでして否定してきた、あの高橋史朗氏が、なんと東京都の男女平等参画推進審議会委員に選出されたことをめぐるアクション。こちらをご覧ください。→http://www.cablenet.ne.j…

『孤高の人』と『岳』、山の本

大学一年生の冬、11月の終わりに登った谷川岳は、青く晴れ渡った空を映し出してか、蒼白の雪と氷に覆われていた。あるいは水気を多く含んでゆるんだ雪が蒼く見えたのかもしれない。山稜から一の倉沢を覗き込むと、蒼白い岸壁が一気に漆黒の影へと落ち込んで…

若き数学者のアメリカ

ゆるゆると部数を伸ばし、ついにあの『バカの壁』をも超える最短期間で200万部に達したという藤原正彦の『国家の品格』はあんまり読みたい気がしないが、同じ著者の『若き数学者のアメリカ』は大好きな本だ。1970年代のアメリカ合州国における若き藤原正彦の…

現象学

「現象学」という言葉は、今なお僕の中に――“村の娘を呼ぶように”(谷川雁)とはいかないまでも――どこか心が躍るような、秘密の憧れめいた、まだ見たことのない場所へ足を踏み入れようとするときのような、あのえもいわれぬ感情を喚起する。たぶん一種のノス…

意識の自然

谷徹『意識の自然:現象学の可能性を拓く』(勁草書房)を読了。久しぶりの現象学。爽やかに晴れ渡ったゴールデン・ウィークの数日間をかけた甲斐は、じゅうぶん以上にあった。2段組で730ページを超える超重量級の本格的な研究書であるにもかかわらず、おそ…

Bob Dylan, Chronicles Volume one

ボブ・ディランの自伝、Chroniclesを少しずつ、電車の中で読んでいる。ちょうど半分ぐらいまで来たところだが、連休中はあまり電車に乗らないので、今はひと休みしているところ。菅野ヘッケルによる邦訳もすでに出ているが、あえて拙い英語力をふりしぼって…